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社長だって人間だ。
いくら仕事が大事で、会社が大事で、そのために自分を押し殺していたとしても。
心が揺れる時だってあるだろう。
「夫婦ってさ、こうじゃないよなって思ったりもするんだ」
「……そうですね。少なくとも夫婦は、ギブアンドテイクではないでしょうから」
「俺もそう思うよ」
社長は苦笑いを浮かべる。
「割り切って婚約をしたつもりだ。結婚して夫婦になっても、互いに相手に気を遣いながらうまくやっていけるつもりだった。でも……実莉には愛想をつかされてる面もあるし、家に帰っても損得ばかり勘定して過ごさなきゃいけないのは疲れそうだろ」
社長の本音がにじみ出ている。
コーヒーをマグカップに注ぎながら、私は揺らめく水面を見ていた。
「夫婦になるのですから、損得の勘定を止めてみるのはどうですか」
「それは俺も考えた。でも、実莉に借りを作りっぱなしにはどうしてもできない。うちと東金運送の関係はうちの方が下手、上手くやらなければ飲み込まれてしまうかもしれないから」
「……そうなんですか」
マグカップを社長に差し出すと社長は「ありがと」と呟いて片手でそれを受け取る。
私は何となく、両手でマグカップを握りしめた。
社長がギブアンドテイクにこだわっている理由が垣間見えた気がして、やっぱり胸の中が騒ぐ。
これが社長が損得を勘定する理由で、譲れないものなのだろう。
真面目な人だから社長は悩んでいる。
たぶん、実莉さんときちんと夫婦にはなれないであろう自分自身に。
「夫婦として結ばれた人間の無償の愛って言うか、互いを思いやる心と言うか。それこそ会社のことなんて放り出してもいいと思えるくらいの感情に憧れる面もあるんだけど、俺は実莉にそこまでの感情は抱けない。……恩田さんは、そう言うの覚えあります？俺今まで仕事の付き合いでしか女性と関わってこなかったから、よくわかんないんですよね」
「……覚え……」
私の脳裏に一人の男が浮かぶ。
たれ目に薄い眉、薄い唇。
小柄で身軽な身体。
でも、思いのほか力強い腕。
私より大きな手。
見つからない、かつての同居人。
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やっち(プロフ) - 続き待ってます❗ (2021年11月9日 5時) (
レス) @page18 id: cc7865b69e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2021年9月20日 21時
