――52 ページ16
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グラスを揺らす。
溶けかけた氷が揺れた。
口をつけて飲み干す。
苦い、アルコールの味がした。
「その男、ちょっと羨ましいな」
「どうしてですか」
「君に探してもらってることが」
社長は本気とも冗談ともつかない声で言った。
私が次の言葉を考えてる間に社長がまた口を開く。
「でも、ずいぶんもったいないことをしたね、その男は。君がこれだけ想ってくれてるのにみすみすそれを捨てるなんてさ」
「買いかぶり過ぎです」
「そんなことない。少なくとも、俺なら手放さない」
社長が目だけで私を見やった。
社長ではない、男性の目に見据えられてドクンと心臓が熱を持つ。
目を逸らしてウイスキーに口をつけた。
お酒が余計に鼓動を早める。
熱が回っていた。
頭がぼんやりしていて、鼓動の脈動が身体中に響いている。
何の所為かは、よくわからない。
「今だけ……忘れさせてあげることはできるよ」
「え……」
声に社長の顔を見た。
社長はグラスをテーブルに置いて私に目を向けた。
社長の手が伸びてくる。
何かから逃げるように私はうつむいた。
「こっち見てよ」
頬に手が触れると強引に社長と目を合わされる。
とろりと熱に重たい双眸が捕らえるように私を見ていた。
「あ……」
社長の手が頬を滑る。
首を撫でて、顎に手がかかった。
社長が身を乗り出す。
ぎしり、とソファが音を立てた。
「君は俺にその無償の愛とやらを教えてくれればいい。そしたらギブアンドテイクだ。……違う？」
「……私、は……」
大切なのは酔った勢い。
要するに寂しさややるせなさや、欲望のようなもの。
熱に浮かされるような呼吸と、甘く響く声。
無償の愛だなんて、そんな綺麗な感情を持っているわけじゃない。
そんなに良く出来た情じゃない。
あの人が忘れられないのは、焼き付いて離れないせい。
「しゃ、ちょう……」
でも案外、はじめてが全部あの人だったから。
他の人に触れてみれば、上から染め変えてしまえるだろうか。
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やっち(プロフ) - 続き待ってます❗ (2021年11月9日 5時) (
レス) @page18 id: cc7865b69e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2021年9月20日 21時
