距離感ばぐる ページ36
「あそこにいるのが鍾離だな」
そこには講談師が話を興味深そうに聞く若い紳士の姿があった。
思っていた姿よりだいぶ若く見える。
丁度講談師が話し終えたようで聞いていた人は皆その余韻に浸っている。
そうして人がばらばらと席を立って去っていくのを見計らって、件の鍾離先生に話しかけに行った。
なんとなく抵抗があったので二人の後ろに隠れ気味でついて行った。
「鍾離先生、ちょっと用があるんだけど」
「む? 嗚呼、空か。俺にできることならなんでも手伝おう」
「ああいや、用があるのは俺じゃなくて...」
後ろの僕が見えるように一歩後ろに下がった。
「...静芳?」
彼は棒立ちしている僕を見て、名前らしき言葉を口にする。
でも、それは僕には身に覚えのない単語で、何も言えずおずおずとしていた。
「...___無事だったのか」
そんな僕に対して責めるでも困り果てるでもなく、そう一言だけ言って優しく笑いかけてくれた。
自然と安心できてしまうような声色だった。
彼はカタンと椅子から立ち上がる。
「む? 耳飾りはつけていないのか」
『?、!?』
僕の右耳にさらりと髪をかけ、そう言った。
何のことか見当がつかないことと、この状況が単に恥ずかしくて押し黙ることしかできない。
そんな僕のかわりに空とパイモンが言葉を続けた。
「ここに来たのは、こいつがなくした記憶を取り戻すためなんだ」
「こうして会いに来たのも、鍾離先生が知り合いだったってウェンティから聞いたからなんだよ」
『鍾離、さん。お願いです。僕に昔の話を聞かせてくれませんか? それでなにか思い出せるかも知れないから』
『自分を知らないことが、何よりも怖いんです』
「...ここではなんだ。往生堂に戻ってからにしよう」
『! はい』
僕達の前を悠々と歩くその人は、どこか浮世離れしていて、それでも間近に感じる何かを僕だけが感じ取っていた。
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ぽんぴー - 数少ない原神BLありがたやありがたや。。そして面白いです。更新がんばってください!!!!! (2022年7月27日 2時) (レス) @page14 id: 0eb447a2e9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:むぎのくろた | 作成日時:2022年7月26日 0時