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「だから…16になった時村から逃げ出してきたんです。」
にこりと彼女は笑った。笑う顔が逆に俺には彼女の心の重荷を思わせた。
「自由になれたと思いました。だけどその日から逃げ出したその日から、夢を見るんです。家族は泣くんです、お前のせいで、お前のせいで。そして、村の人は笑うんです、お前なんか生きている価値もないと。
私は怖くも、悲しくもありません。だけど、情けなくて悔しくて。守ってもらいながら逃げ出した自分が許せなくて。
だから、夢を見るのが嫌で眠らないんです…。」
俺は何もいえなかった。確かに彼女が暴れた時は、悲しそうで、やり切れなさそうだった。だけど、それは彼女の意思ではない。彼女は悲しいと思うことさえも許されないと思っているのだから。
沖 「お前はつえーな。」
俺はひとつ、ぽつりと呟いた。色々言いたいことがあったのにそれだけだった。だけど彼女は目を丸くして俺を見つめた。
沖 「つえーや。」
ぽんぽんと頭を撫でた。さぁっと風が吹いたかと思ったら、ひとつ彼女はやっと涙を流した。
「助けてくれる人なんて、誰もいないと思ってた…。」
彼女も1つだけそう呟いた。溢れる涙はもう止められそうではなかった。
ゆっくり引き寄せて、抱きしめる。華奢な体は俺の腕の中にすっぽりと収まった。
その日彼女はやっと自分のために泣いた。
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作者名:咲 | 作成日時:2017年1月16日 1時