CRUSH × BUZZED × CRAZY ！？【utit】 (ページ23)

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「…夢魔、ってわかります？」

少しだけ気まずそうにこちらに向けられた視線。困ったように苦笑いを浮かべるその表情から、彼が『受け入れて貰えるだろうか』という不安を抱えていることを感じ取る。

夢魔。とある神話や宗教の経典において描かれる下級の悪魔の一種。なるほど、不貞を嫌う人間であればその事自体に嫌悪するだろうから、彼は今の今まで躊躇したのか。

だが、逸話にある通りの存在かどうかは私にとっては判断が付かない。加え、現在私と話をしている彼は実体を持っている生命体だ。確か夢魔と言えば──

「...夢魔って、実体を持たない生命体だった、ような記憶が。人間の夢に入り込む生物でこうやって──現実で触れることは叶わない、と読んだような」

「えぇ。純血であれば、の話ですが」

私が"夢魔"という単語に嫌悪感を表さなかったからか、むしろ真面目に興味を持って疑問を呈したからか。彼は少しだけ安心した表情で、言葉を紡いでくれた。

「僕ら、夢魔と何かしらの混血なんです。だから、触れられる」

自らの手を握ったり開いたりして、それを見つめる彼。柔らかく微笑み、嬉しそうな表情を浮かべた。

──混血。確かに、この多種族社会では珍しくはないのかもしれない。...そうだ。夢魔との混血なのであれば、食物からの栄養摂取を必要としないのも頷ける。

「そう、ですよね。人間の夢や感情を栄養として摂取している訳ですから、人間がいなくなってしまうのは困りますよね」

人間を食糧として──というのは少し言い過ぎだろうか、現代の価値観で言えばおかしな話だが。自らが生きるために必要である人間を易々と殺す訳にはいかない。そういう事だ。

つまりは、夢魔が人間を殺すことはよっぽどの理由や趣味でなければ有り得ない事となる。

「なるほど。納得しました、人間を殺したくない理由。偽善や罪悪感よりよっぽど信憑性があります」
「──そう、ですね。信用してくださってありがとうございます」

安心したような、少し寂しそうな。微笑みを浮かべながら、どこか儚げな印象を彼は纏っていた。

常に微笑んでいることに変わりはないが、彼はその中でも様々な表情を見せてくれている。...今の、寂しそうな表情の意味は解らないけれど。