CRUSH × BUZZED × CRAZY ！？Ⅱ【utit】 (ページ5)

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「昔の、夢を見たんです」

ぽつり、ぽつりと話し始めた彼。
あまり彼が私にしてこなかった、自分自身の話。昔のこと。夢魔と人間のハーフの彼の言う昔は、どれ程の年月を表しているのかはわからないけれど──大切なことを思い出すように話すその表情が、すべてを物語っていた。

夢魔と人間のハーフとして生まれた自分は、夢魔にも人間にも疎まれる存在だった。

親と呼ばれる存在のことなんて覚えていない、ずっと一人で、生きるために必死で。望まれて生まれてきたわけじゃない自分は、生まれてから安心できる瞬間なんて物心がついてからは一度たりともなかったと。

そんな中、出会った一人のひと。

生まれや流れている血なんて関係ない、少し前の時代では珍しかった部類の考え方を持っていたひと。そのひとの言葉に純粋に救われた、自分は存在していいと思うことができた。

「…そのひと、Aさんに似てるんです」

腑に落ちた、ような。

パズルのピースが綺麗に当てはまったような気がした。以前、彼が『人間には優しくしたい』と言ったことがどうにも嘘に思えて仕方なかったのは、このせいかと納得した。

彼は、人間だから私に優しくしていたのではなくて、私を昔自分を救ってくれた"ひと"に重ねていたのか──そう、これが正しい理由だろう。

彼はそれ以上、昔の話をしなかった。その"ひと"が今はどうしているのか、どんな"ひと"だったか、という話は一切しなかった。もしかしたら、あまり昔のことを引き摺りたくないのかもしれない。

…彼が『どこにも行かないで』と繰り返していた以上、その"ひと"はもうこの世にいないのだろうけれど。

あの表情はとても辛そうで、何かに縛られているようで。もし、それがずっと呪いのように彼に纏わりついているのであれば。それは、それはとても──

「…センラさん、一つ、提案があります」
「なんでしょう？」

こてん、と首を傾げた彼。
全部消してしまいたい訳じゃない、でも、その"ひと"は彼が過去に縛られたままという事実にいい顔をするだろうか？悲しまないだろうか？そう、思って。

私の自分勝手な推測だ。でも、『頼って欲しい』と言った以上、それを守りたくて。

「私に敬語使うの、やめてみませんか？」