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ふと、耳馴染みの良い鳴き声が聞こえた気がした。
周りを見渡して、その鳴き声を探すと建物の間、薄暗い路地に一匹の猫が佇んでいた。近付いてしゃがんでも、その子は私をじっと見つめて逃げない様子。
「どうした、って。猫？」
後ろから覗き込んできた彼。それに少し驚いたのか、目の前の猫は立ち上がって逃げようとしたものの。またすぐに戻ってきて、私の手に擦り寄った。
「あー、ごめんね、私今何も持ってないや」
多分、食べ物が欲しくて人間に擦り寄っているのだろう。首輪も何もついていないから、野良の猫だと思うし。獣人の存在がゆっくりと明らかに、そして認知されてきてはいるものの。
こういった野良の、獣人ではない純粋な動物もまだまだ多い。保護活動も推進されてはいるものの、都市部での野良の動物の多さはあまり減った様子は見られない。
食べ物を与えられずに、私に顎の下を撫でられて気持ちよさそうにしているその猫に少しだけ罪悪感が湧いて。でも、こうしていると動物保護棟にいたあの子を思い出すな、と。
そういえば、あの日動物棟に行けずに連れていかれてしまったから、結局あの子の安否はわからないままだ。動物保護棟の侵入者の件も──侵入者？
そうだ、侵入者だ。私の真後ろにいる彼も、研究棟からしたら立派な侵入者である。と、考えると。
「…うらたさん、つかぬことをお聞きしますが」
「何、別にいいけど」
「私を拉致しに来る数か月前に、研究棟じゃない棟に下見とかで不法侵入しませんでしたか？」
"下見で不法侵入"というワードが何とも非現実的、かつ無法地帯だが。彼は私の疑問を聞いた次には、すぐに「してない」と返してきたのである。…もう少し熟考するフリをしたりだとか、気を遣ってくれてもいいんじゃないか。まあ、してないことがハッキリしてるから即答だったのだろう。
それにしても。では、あの噂話は何だったんだろうか。噂だけが一人歩きしているあの状況は。それか、もう解決済みで"侵入者がいた"という噂だけが流れ、その詳細に関しては伏せられていただけ、なのかもしれないけれど。
「…あ」
あれこれ考えているうちに、私の手にじゃれていた猫はするりと離れてしまって。あっという間に路地裏の段差を飛び越えて、一度こちらを振り返って「にゃあ」と一鳴きすると走り去ってしまった。
「……行っちゃった」
「…あぁ、俺らも行くぞ、レストラン」
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結月。(プロフ) - この作品と出会ってから一気読みするほどめちゃくちゃ大好きです。作者様のペースで構いませんので、更新楽しみに待っております。 (2022年2月10日 2時) (
レス) id: 286dc51d91 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：#N/A | 作成日時：2021年11月24日 21時
