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フウマさんはクマのキーホルダーの金具を開き、鍵の上部の穴に引っ掛けてうん、と満足そうに微笑んだ。
鍵の端で不細工と称されたクマが、空で上機嫌に踊る。
「これでよしと」
「絶対に無くしませんね、これなら」
「だろうな。超不細工だし無くしても見つけられる自信ある」
フウマさんはクマが視界に入る度に、不細工と笑ってクマの頬を両手で掴む。
いきなり手の届かない遠くにいるような時があり、まだ距離感が掴めないフウマさんの笑顔だけは、少し幼かった。
そんな彼の様子を和やかに見守っていると、ふと視線がこちらにあることに気づき瞬きをする。
「フウマさん?」
「帰るぞ」
「え?」
「飯、どうせ買い物に金使ってお前もまだ食べてないだろ。作ってくれるって約束してくれたよな」
今度は意地悪そうな笑みを浮かべて、彼は言う。
と、同時に私の腹の虫が鳴いたのだが、幸い喧騒の中では誰にも気づかれなかった。
自分だけが知り得る事実に顔が赤らむのを隠そうと半ば反射的に頷くと、フウマさんは私の手を取り半歩前を歩き始めた。
その大きな背に、私は腹に力を込めてありったけの大声で問いかける。
「何がいいですか」
「何でも」
「それ1番難しい注文です」
私の文句に彼が確かに、と茶目っ気たっぷりに笑う。
人々が各々の目的を持ち進む喧騒の中でも、彼の笑い声と表情は私にとって鮮烈に焼き付いた。
最初は家族連れを見て縮こまっていた癖に、今では意識の片隅にも居座らない程に彼しか映らない。
ますます、顔の赤らみを隠せなくなる。
私が彼を意識するのは、傷だらけですと自虐を着て歩いていることが勲章だった、そんな私に手を伸ばしてくれたからだろうか。
全くの他人なのにこんなにも親切だからだろうか。
別に縁が何処かにあったわけでもないのに、よく笑いかけてくれるからだろうか。
そんな考えを巡らせていると、最初出会った頃に比べてフウマさん自身が親切に、よく笑うようになったなとふと1つ浮かんだ。
「フウマさん、今日よく笑いますね」
「あー……昔妹と来たショッピングモール思い出したのかもな。妹はその時初めてだったから、テーマパークと勘違いしたような興奮と熱視線だったな」
また、フウマさんが笑う。
でもその笑みの先には、私がいない。
私に向けられてない、と直感した瞬間にちくり刺す胸の痛みに苦笑いする。
……結局私は、他人に期待せずに生きられないのだと愚かな性格を認めなければならなくなった。
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miU(プロフ) - おかえりなさい!これからの更新楽しみにしています! (2018年4月25日 7時) (レス) id: b909dcbe9a (このIDを非表示/違反報告)
Ryrie**(プロフ) - みうさん» みうさん、ありがとうございます。これからさらに落ち着かなくなるような展開を考えていますので、是非最後までお付き合いくださいませ。 (2018年1月13日 22時) (レス) id: 3c581ac854 (このIDを非表示/違反報告)
みう - どきどきして心が落ち着きません!続きを楽しみにしています! (2018年1月7日 23時) (レス) id: b909dcbe9a (このIDを非表示/違反報告)
Ryrie**(プロフ) - カグラさん» カグラさん、ありがとうございます。まだまだ序盤ですがこれからも見てくだされば幸いです。 (2018年1月5日 22時) (レス) id: 3c581ac854 (このIDを非表示/違反報告)
カグラ(プロフ) - ずっと待ってました!この世界観が好きで更新するたび楽しく読ませてもらってます(о´∀`о)これからも待ってます! (2018年1月4日 14時) (レス) id: 55da401ce9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:紅島 | 作成日時:2017年9月20日 16時