【◇】銀木犀 6. (ページ11)

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255話ページ11

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好きな人に好きな人が出来た時

きっと素直に頑張れなんて言えない

好きで好きでどうしようもない感情は

1度進んでしまったら二度と元には戻れない

A｢ありがとう、こんなとこまでわざわざ｣

鳴｢ううん、へーき｣

さっきまでのやり取りがまるで最初からなかったかのように

優しく笑い合うAと鳴

しかし互いに全く何も思っていないというわけでもなく

A｢時間大丈夫かな｣

鳴｢大丈夫だと思う｣

A｢ならいいんだけど｣

体が熱くて、心臓の音がずっと大きくて落ち着かない

いつもなら目を合わせて話せるのに

今はそれすらできない

あんなことを言ってしまったせいで

変に思われていたりしたらどうしようなんて考えている

カバンを受け取り、自転車から降りたその時

A｢(あ…………)｣

一瞬だけ視界がチカチカと光り

足元が覚束なくなった

Aは咄嗟にその場にしゃがみこみ

腕に顔を埋めた

さっきまでなんてことなかったはずなのに

頭が左右から殴られているように痛い

鳴｢Aちゃん？｣

心配そうな声が頭上から降り注ぐ

何か言わなきゃと思うのに上手く言葉が出ない

これ以上この場に留まらせないように

早く歩いて、家に入らなきゃならないのに

手足が痺れて思うようにいかなかった

A｢(最悪、ほんとに……なんでこうなるの)｣

全く冷たくない風が少しだけ恨めしい

ただでさえ変なことを言ってしまって後悔しているのに

鳴｢…………具合悪い？｣

耳元に届くいつもより少しだけトーンの下がった優しい声

心配と言うよりはどこか不安の方が強そうな

そんな声でもある

今思えばこんな暑い日にずっと日陰でもない場所で

何も飲まずにいたのが悪かった

今日は心配して、心配される、わけのわからない日だ

A｢成宮くんのせいじゃないよ｣

鳴｢え……なんでわかったの！？｣

A｢なんとなく、成宮くんならそう考えるんじゃないかなってちょっとだけ思った｣

鳴｢なんかごめん｣

目線をあげると夕日に照らされた金髪頭が見えた

逆光で正直どんな顔してるのかイマイチわからないけど

一緒に帰ったこと自体に後悔してるとか

そんなことは1ミリたりとも思ってなかった