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No.9 ページ10

「頭冷やしてくる」


そう言ってフロイドは徐ろに立ち上がると幽霊のようにフラフラしながら去って行った


『…行ってらっしゃい』

それだけ言って、僕……わたしも立ち上がる




『……』

言葉に出来ない寂寥感

ネモは彼女と会ったことはないが、知らない誰かであっても訃報は悲しい報せである事に違いない


ネモが成りすましてるジェイド・リーチも、微笑みの仮面の裏ではいつも彼女の死を悼んでいる


ネモの手は全てを暴く呪いの手だから、彼の隠した本音もお見通しである



『…行こ』


誰に言うでもなく、呟く

わたしは再び己を探す旅へと長い足で踏み出した









「あら、久しぶりね」


『これはこれは…貴方が学園に来てるだなんて珍しい』



本物のジェイド・リーチに出くわさないよう慎重に学園を散策している途中、一人の男がわたしの姿を見て立ち止まった




「近くまで来たから、そのついでよ」


ヴィル・シェーンハイト

ポムフィオーレ前寮長だ


ジェイド・リーチと関わりのある人物の登場に少し唾を飲み込んだ



だが四年生の彼は今は実習で忙しい筈

その彼が何故、学園に?





「……あの子が死んで、まだ半年も経ってないのよね」


そこでネモはハッと息を呑んだ

今の言葉で、忙しい筈の彼が何故学園に居るのか、記憶と照らし合わせた()は合点がいった




『…お墓参り、ですか』

「えぇ。あの子寂しがり屋だし、行ってやらないとあの世でもわんわん泣いてそうだから」

『ふふ、強がりですね』



そう、お墓参り

城の近くの墓地に、彼は暇を見て花を供えに来たのだろう




『ディアソムニアの彼は毎日行っているみたいですよ』

「…流石ね」


脳裏を過ぎる一人の小さな妖精

彼の腕には白い可憐な花束が抱えられている




「いくら実習が免除されて暇だからって、毎日は凄いわね。これも愛のなせる技ってやつかしら」


彼が小さく笑った




『…少し、羨ましい』

「は?」



気付けばネモはそんな事を呟いていた

ジェイドへの擬態も忘れて、わたし(・・・)はぼんやりと続ける




『死んだ後も花を贈られ、冥福を祈られる彼女が。

……死後、誰からも忘れ去られるのは辛いですからね』



そこまで言って漸く僕はハッと我に返った





「アンタ…どうしたの?」

『…忘れてください』


失礼します

そう続けてネモは慌ててその場を後にした






『わたしは何を言って…』


先程の己の発言に自分自身も戸惑っていた

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くらげ - コメント失礼します!2シリーズ続いて読みました。なんか伏線とか伏線回収とか綺麗すぎて五芳星とか厄災とかもうほんとにすごかったです!次回作が作られたら速攻で見ます!これからも頑張ってください!! (12月3日 10時) (レス) @page50 id: 09404ca91f (このIDを非表示/違反報告)
サカ - 初コメ失礼します!全部一気読みしてしまいました。すごく素敵な物語だと思います!!!!今まで読んだ中で1番好きです (2023年1月22日 22時) (レス) @page50 id: 0270587d36 (このIDを非表示/違反報告)
やぎ - 初コメ失礼します!!この前の小説も今回もとても素敵なお話でした!初めて夢小説で泣きました(T ^ T)これからも更新頑張ってください! (2022年9月25日 12時) (レス) @page50 id: c3ead30411 (このIDを非表示/違反報告)
黒猫(プロフ) - 初コメ失礼します!!!!!とりあえず神作をありがとうございます:( ;´ཫ`;):シリーズ一気読みして何度泣いたことか…感動やばいですコレ…こんなに泣いたのは久しぶりです‪wこれからも投稿頑張ってください!応援してます! (2021年11月12日 13時) (レス) @page50 id: d86b6fe909 (このIDを非表示/違反報告)
次亜鉛素酸 - 一気読みを今更させていただきました。伏線やら何やらもう神ですね(語彙力)もうコメントをご覧になっていないと思いますが、素晴らしい作品をありがとうございました。 (2021年10月26日 1時) (レス) @page50 id: 1c5b1c4456 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ニノココ | 作成日時:2020年12月25日 18時

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