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Episode10 ページ11

それは、王子様のお父様――国王陛下のお達しだったのです。

『隣国の国王に挨拶へ向かえ』

王子様はルサールカを召し上げたあの日から変わることなく、彼女を連れて隣国へ赴きました。あの日から3年もの間、彼の寵愛は変わることなくルサールカへと注がれ続けていたのです。それが彼女にとって、何よりも喜ばしいことでした。

「国王陛下にはご機嫌麗しく――」

「ああ、良い良い。この度は長旅御足労であった。して、隣の淑女は一体?」

「ああ、彼女はわたくしの妹にございます。啞でありますが、聡くとても良い子ですよ」

ルサールカは立場上、王子様の妹君であるということになっているのです。その立場を王子様の口から直接聞く度に、ルサールカの胸は痛みます。けれどそれに気付かぬ振りをしながら、ルサールカは丁寧な辞儀をしました。

国王陛下と王子様が話し合う中、それを中断させるように玉座の間の扉が開きます。王子様につられるように開かれた扉の先を見ると、ルサールカは驚愕のあまり口を大きく開き両手で抑えました。

――あの女性(ひと)は……!!

「もしや貴女は、あのときの……!」

そう、彼女はあの3年前に、王子様を修道院へと抱え入れさせた王女様だったのです。我を忘れ慌てて駆ける王子様に柔和な笑みを浮かべる王女様は、ルサールカに劣らぬ美貌を輝かせていました。

「お久しゅう御座います、王子様」

「何という奇跡……! ああ、姫! 見ておくれ、僕がずっと恋い焦がれていた方だよ! やっと再会することが叶った……姫も喜んでくれるかい?」

国王陛下の御前であることを忘れ、愛しの君との再会を喜ぶ王子様の純粋で残酷な言葉は、ルサールカを傷付け苦しめるには充分過ぎるものです。

けれど彼女は笑いました。他でもない愛する王子様が喜んでおられる中、どうして泣き喚くことができたでしょう。


――違うのですよ、王子様。

心の中で、精一杯叫ぼうと。

――私が、貴方を救ったのです。

誰の耳にも、届くことは叶わないのですから。

数日後、王女様の王国へのお輿入れが決まりました。

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芙蓉(プロフ) - 影狼さん» そう仰って頂くことが、何よりも物を書く励みになります。“人魚姫”は私にとっても思い入れのあるもので、何としても良い作品を書きたいと思っておりました。影狼さんの心を少しでも揺さぶることができたこと、本当に嬉しく思います (2018年2月20日 21時) (レス) id: 4139a6982c (このIDを非表示/違反報告)
影狼 - 何回も読んでいるのに、なぜか毎回号泣して、画面が凄い濡れます。名前をつけたり、言葉遣いを変えるだけなのに、この作品は素晴らしすぎる! (2018年2月18日 15時) (レス) id: eaea3a9226 (このIDを非表示/違反報告)
芙蓉(プロフ) - 神鳥さん» ちょっと端折られていますね。人魚は確かに王子を愛しました。そして彼の持つ永遠の魂に憧れ、人間になりたいと願ったのですよ (2017年8月14日 21時) (レス) id: 4139a6982c (このIDを非表示/違反報告)
神鳥(プロフ) - 私が聞いた話によると、人魚姫が泡にあったあと妖精になり、三年間善い行いをすれば、不滅の魂になると聞きました。つまり人間になれるということです。人魚姫の目的は人間になることだったので。しかし、あまりこのことは聞かないので、私の勘違いかもしれません (2017年8月14日 21時) (レス) id: c9a08bd565 (このIDを非表示/違反報告)
芙蓉(プロフ) - るいさん» ありがとうございます。そう言っていただけるだけで嬉しい限りです。期待にお応えできるよう頑張りたいと思います (2017年8月14日 19時) (レス) id: 4139a6982c (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:芙蓉 | 作成日時:2017年8月14日 17時

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