【黒蝶ノ宴】この手をとって。 (ページ24)

今日:1 hit、昨日:2 hit、合計:3,995 hit

第二十二話ページ24

*

血走る彼の瞳を見た瞬間、目の前が真っ暗になったような感覚に陥る。

脳裏に浮かぶのは大柄な……人影。

『…＿＿さぁ、血を寄越せ…！！』

真っ黒な影。
骨張った大きな手がこちらに伸びてきて＿＿＿。

その瞬間、ハッとした様に我に返った。

いつも間にかいたのだろう、溢れ出るように流れてくる冷や汗が止まらない。

とてもとても寒い。
肩が、足が、全身が、どうしようもなく震える。

あぁ、ダメだわ…。

そう思ったと同時に、私は意識を手放した。

....
...
..
.

「おっと…まだ無理だったようじゃな」

気絶した彼女を抱き留めたのは、赤黒い髪を揺らした女性。
ほかの誰でもなく、理事長である。

彼女は相変わらず神出鬼没だ。
いつ入ってきたのだろうか。
足音も立てず、気配も感じさせず、スッと現れればスッと消えていく。

そんな彼女はクロエを丁寧に横抱きにすると、視線を胸元へと移した。

気絶しているというのに、クロエは大事そうに渡した本を抱き抱えている。

そっとその本を抜き取れば、近くにあったテーブルに置いた。

それから視線をまた移す。

吸血衝動と闘っている彼に。

先程よりも理性を失いかけている彼を見て、不敵に微笑んだ。
その笑みにどんな意味があるのかなんて、察する事は到底無理である。

彼の呻き声が聞こえる中、彼女は静かに告げた。

「闘うのだ。過去にも、今後待ちわびる未来にも、な。」

意味深な言葉を残し、彼女はクロエを横抱きにしたまま「騒がせたようじゃな。失礼する」とご丁寧にそんな言葉を呟いて部屋から出たのだった。

「ん、……」

薄らと重たい瞼を開けば、そこには見慣れた天井が写った。

ズキズキと痛む頭を片手で抑えながらゆっくりと体を起こせば、そこに広がるのは自分の部屋。

いつの間に…？

なんて思ったが思い出せるわけもなく、唯一覚えているのが彼の部屋の前までの記憶だけである。

それからの記憶がないのだ。

思い出そうとすればズキっと頭が痛む。