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六柱 ページ6




「…私は確かに死ぬことに躊躇いはありません」


生きることに、執着をしているつもりはない。

ただ、死のうとしているわけでもないが。


「身寄りは無く、金に困っていて…貴方方が望む程度の力があるのかもしれません」


まっすぐと、柏木さんの目を見つめる。

彼の目もまた、私を真っ直ぐ捉えていた。


「ですが、」


服の上から、ネックレスを握る。

そして、自分自身をなだめる様に深く息を吐いた。


「自分の死に場所くらいは、自分で選びますよ」


たとえ、死ぬことに躊躇いがないとしても。

だからといって、他人に決められた場所で死のうなどとは思わない。


「……それはそれは、結構でございます」


最後の最後にでた、柏木さんの冷たい返しに確信を得る。

恐らく、これから私が行くところは酷く恐ろしいものが広がっているのだろう。


私は、生贄か。


この時の政府という組織に、私の様な立場に立たされているものが何人いるのだろうか。

きっと、少なくはない数なのだろうと察することができる。

前をむきなおり、一歩踏み出す。


鳥居の黒い空間に片方の足を差し入れる。

何かに触っている感覚はなく、まるで底なしの沼が広がっているかのようだ。

死の淵にでも足をかけている様な気がして、ゾッとする。


…ええい、ままよ…!


唇を噛み締め覚悟を決めて、勢いよく飛び込んだ。

視界が黒く染まるとともにぐにゃりと意識が歪む。

その遠くの方で、微かに声が聞こえた。


_____それが許されるのであれば、の話でございますが。


「許されるも何も、そう在るだけですから」


ポツリと、柏木さんの声に返した。

その時、足の裏が押し返される感触が伝わり目をゆっくりと開ける。


「審神者様、ここが貴女様の本丸でございます」


管狐の声が聞こえた。

辺りを見渡し、これ以上ないほどに荒れ朽ちているのだと認識する。


雑草の一つも生えないひび割れた土地。

緑に濁った池には鯉が腹を天に向けて浮き上がっている。

空には光の一筋も差させぬべく暗雲が立ち込んでいた。

植物が枯れ果てた畑に、遠目で見える限り本丸を囲む山は緑というよりも生気のない茶。

そして、新しく建てた方が早いのではないのかと言いたくなるボロボロの大きな屋敷が立っていた。


…これが、『本丸』。


「いや、“ブラック”本丸、か…」


自然とため息が漏れ出ていた。

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作者名:甘夏蜜柑 | 作成日時:2019年4月10日 21時

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