四十二柱 ページ42
．
「…行きましょうか」
ふわふわとする思考をどうにか律して、母屋に背を向ける。
これは、毎日のようにやらなくてはいけないかもしれない。
「今代の主は、よほどの霊力があるのだなあ。先代にも負けぬかもしれん」
「恐縮です…」
「おお、こんな所に結界が張ってあったか…しばらく外には出ていなかったからなあ」
離れの結界を通れば、三日月様も当然のようについてくる。
…本当に、三日月様は私を主と認めてくれているらしい。
「審神者様ーっ！」
意外に思いながらも離れに上がる。
その時、離れの奥の方から白い影が勢いよく駆けてきた。
「コン、ただいま」
「おかえなさいませ！っではなくお怪我をなされているじゃないですか、血だらけです…！」
「少し切れただけだから。三日月様をどちらかの部屋にお通ししてくれる？」
「はい、わかりました！三日月殿、こちらへ」
「ああ。主よ、ちゃんと手当をするのだぞ」
「…ご心配、痛み入ります」
腰を折って深く一礼し、彼に背を向ける。
足早に厨へ入り、お茶の用意をしながら血だらけの首を清めた。
結局三日月様の手拭いを使うことはなく、迷った挙句に袂へとしまった。
「失礼します」
お茶と茶菓子を持って部屋へ向かう。
声をかけて襖を開けて入った。
三日月様は縁側に続く障子をあけ放ち、日の差し込む場所に座っている。
「おお、主よ。どうかしたか？」
「お茶のご用意をいたしました。よろしければお召し上がりください」
「茶か。はて、こんなにゆっくりと飲めるのはいつぶりだったか…」
燻らした煎茶を急須から湯呑みへと移す。
御茶菓子である羊羹と一緒に彼の横へ出した。
「主よ」
「はい」
「この後、ジジイの茶に少し付き合ってはくれぬか」
手当を終えてからな、と三日月様は私の首筋に視線を這わせる。
また少し、血が滲んできているのかもしれない。
「かしこまりました」
「すまんな」
「いえ。では少々、お時間をいただきます」
「構わん。ついでに軽装にでも着替えてくるといい」
三日月様に頭を下げて、自室として使っている部屋へと戻る。
軽装、と言われてしばし考えた後、マキシ丈のワンピースと薄いカーディガンを身に付けた。
首の傷は、血が未だ出ていたのでガーゼを当てて適当に包帯を巻く。
…さて、お茶は淹れ直すべきだろうか？
茶菓子は、何か他にあったかな…？
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作者名：甘夏蜜柑
| 作成日時：2019年4月10日 21時
