三十一柱 ページ31
．
ぱち、と目が覚めた。
それは何かの気配を感じたからであり、自分でもこんなに人の気配に過敏に慣れたのかと心のどこかで驚いていた。
目の前に広がるのは、透き通ったスカイブルーとストロベリーブロンド。
ふわりと香ったのは、甘い香りとそれを打ち消そうとする鉄の匂いだ。
「っ、」
「ぁ、」
お互いにとった行動は、似たようなものだった。
グン、と身体を引く。
その直後、ゴンッと鈍い音が響いて、目の前に星が舞った。
「ッ、づぅ…！」
頭を背後の壁に打ち付けたのだろう。
反射的に両手で打った後頭部を抑えて蹲る。
大抵のことでは変化しなくなった無表情が歪んでいるのがわかった。
「だ、だいじょうぶ？」
想像よりも低い声が、鼓膜を揺らす。
その瞬間に、頭が冷水をぶっかけられたかのように冷えた。
ズキズキと痛む頭を無視して、崩れた足を整える。
そして手の平を畳につけ、額が畳にあたる勢いで頭を下げた。
「大変失礼致しました、乱 藤四郎様」
「えっ」
「10日ほど前からこの本丸を担当させて頂いた審神者でございます。この度は、神である刀剣男士様方に人間ごときが無礼を働き、誠に申し訳ございませんでした」
「…ぁ、の…顔、あげて？」
「…失礼致します」
ペタリと座る彼は少し困ったような表情でこちらを見ていた。
こちらに伸ばしかけたのであろう手は、宙で彷徨っている。
「僕は…その、気にしてないって言ったら嘘になるけど、アナタだったら信じてもいいかもしれないって…思ってるから」
「乱 藤四郎様…」
「あんなにボロボロだった庭も直してくれた…それに、アナタが何かやったわけじゃない。人が皆悪いものばかりじゃないって…知ってるしね」
彼は苦笑に近い笑みを浮かべているが、その身体は見ていられないほどに凄惨だ。
所々服が破け、血が滲み、髪もざっくばらんなところがある。
愛らしい容姿を持っているから、きっと前任には殊更いい思い出はないはずで。
「…僕はね、この本丸の3振り目。アナタの前の人間に顕現されて、その人にしか理不尽なことをされなかった…だからいち兄達ほど人を憎んでいないんだと思うんだ」
スカイブルーの瞳が、私を真っ直ぐ捉えた。
「だけど…いち兄達は憎んでる。アナタに危害を加えられていないのに殺そうとするくらいに。だから、明日の話し合い、僕は行かない方がいいと思う」
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作者名：甘夏蜜柑
| 作成日時：2019年4月10日 21時
