佐久間とイヤモニと ページ23
「なーにかいてんの？ 」
「ウッ、びっくりした……」
翔太のレッスンを待っている間、空き部屋で一人ぼーっとしてるところだった。
「んえ、絵描いてんの？ 」
「うん。暇だったからね」
「相変わらずじょーずだねぇ」
手帳のスペースに殴り書きしてた絵。結構集中してたみたいで佐久間くんが部屋に来てることにも気づかなかった。
「ラウ達に褒められてからまた描けるようになったんだ」
「……そっか」
「あの時も今みたいに隅っこに描いてた絵を褒められたんだよね」
絵は無心になれるから好き。上手く描けなくても、完成すればなんだってそれらしく見える。今仲良くしてる友達も絵が繋いでくれた縁が多い。
「……Aちゃん？ 」
「んー？ 」
「俺のイヤモニ、デザインしてくれないかな」
「えっ？」
冗談とも思えない真剣なトーン。後ろにいたはずの彼はいつの間にか隣にいて、座っている私と視線が合うようにしゃがみこんでいた。視線が混ざりあって離れない。
「きゅ、急にどうしたの？ 」
「急だけど急じゃないよ。まえからずーっと思ってた」
矛盾。そんな素振り、見せてきたことなかったのに。
「ちゃんとしたデザイナーさんとか、憧れの先輩とかに頼んだ方が、」
「Aちゃんだって憧れの先輩だし、俺にとってはちゃんとしたデザイナーさんと思って言ってるよ」
「いや、佐久間くんの方がどっちかっていうと先輩じゃん……」
だんだん前のめりになってくる佐久間くん。第一私は絵に関するお仕事でさえも受けたことがないのに、その上デザインなんてハードルが高すぎる。絵が描けてもみんながみんな、デザインができる訳じゃないのだ。
「デザインが難しいんだったら絵を描いて欲しい。ちゃんと、お仕事として依頼するから。」
「、それが問題なんだよ……“仕事”だから難しいの……」
友達として描くのなら別にいい。ただ仕事となるとそこに責任が伴ってくる。生まれてこの方絵を商売にしたことないから相場も分からないし、どんなふうに進めて行かないといけないのかも分からない。要するに、依頼として受けるための知識が備わっていないということ。
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作者名：風呂 | 作成日時：2023年1月29日 15時
