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この頃シャツが肌に貼りつくようになって、気持ち悪い。
日に日に強くなっていく日差しも、一層緑を濃くする景色も、確実に夏へ近づいていることを表していた。
夏は暑いし、焼けるし。
おまけに嫌いな行事が立て込むから、嫌いだ。
「うう、冷房つけてくんないの？」
「先生がダメだって」
「…さいあく。あつい。帰りたい」
襟に手をかけて空気を送り込むも、生ぬるいものが入ってくるだけ。
三時間目の体育は絶対に休んでやると決めて、立ちあがった。
大ちゃんから、どこいくの？と聞かれたけど、答えなかった。
いや、答えたくなかった、かな。
***
「おーい」
「……なんだ、また？」
「うるさいな、暑いからサボりにきたの。しょっちゅうなのは一緒でしょ？」
北校舎の一番端。
日も当たりにくく特別教室が並ぶばかりで立ち入る生徒は少ない。
先客は俺の姿を見て微妙に顔を顰めたくせに、人ひとり座れるスペースを空けてくれた。
「そんなに休んでて大丈夫なの？」
「俺はいいの。薮こそ転校してきたばっかりのくせに。やばいんじゃないの？」
数週間前にこの町に越して来た彼は、薮宏太といった。
物腰柔らかでいつも人当たりの良い笑顔を浮かべていた彼は瞬く間にクラスの人気者になって。
それなのに、彼はそれから逃げるようにこの部屋で過ごすことが多くなった。
「いいんだよ。だって……」
"だって"の後の言葉が薮の口から発せられることはなかった。
俺は俺で、その続きを無理やり聞こうとはしない。
「単位落としてもしらねーぞ」
「その言葉、そっくりそのまま返すわ」
くく、と薮が肩を揺らして笑う。
(……そう、それでいい)
だって、の後を告げようとする時の不安げな表情なんて、お前には似合わないから。
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