6月3日 ページ5
朝からじめじめとした空気が漂った。
雫が集まって人の形を成していく。
眼を開けばいつも通りの世界だったが、少し楽しみにしていた。
まだ8時前で、予定の時間よりも早い。
眺めることはしたが、出かけるのは初めてだ。
それも誰かと出かけるというのは。
「待ったか」
空から降りてきたのは勿論彼だ。
今日は黒い傘をさしていた。
今日は傘をさしているんですね、なんて聞けば、街中歩くってのにびしょ濡れはマズいだろ、と苦笑を返される。
取り合えず、下へ降りるために外階段を使う。
「今日はどこに行くんですか」
「祭りがやってンだ、小さいけどな」
階段を降り切って人ごみの間を縫うように通っていく。
傘を持たなくても濡れない私にとっては傘は邪魔だった。
だが、彼が入れてくれる傘はなんだか悪い感じはしなかった。
やがてついたのは小さな八幡神社だった。
確かに屋台も並んでいて、子供が多くいる。
傘ではなく、合羽を着て走り回るようにして屋台を行ったり来たりしていた。
近くの屋台を覗こうとすると手を握られ引かれる。
「賽銭してからだ。ついでだ、
神が神に賽銭をする、何か不思議な感じだった。
人の真似事をするように、握らされた5円玉を投げ入れ鈴を鳴らす。
二礼二拍手一礼、横目で彼の様子を見て、同じタイミングで頭を上げる。
鴨の親子のように後ろをついていく。
ん、と渡される100円玉を賽銭箱と同じ形になっている方へ入れ、丁度手が入る穴へ手を入れ一つ引き出す。
覆う紙をはがし、折り畳まれた和紙を広げていく。
彼も隣で和紙を広げていた。
「吉ですね。中也さんは」
「俺は…、大吉だ」
嬉しそうに目を細めて内容を読む姿でさえ様になる。
今まで見てきた人間よりのずっと人間らしいその姿に惹かれる。
何やら明日は大事な仕事があるらしく、よかったと、安堵の表情。
今日という日だけで彼の明るい表情が垣間見えた。
「おい、何ぼーっとしてンだよ。置いてくぞ」
「あ、私、林檎飴食べたいです」
気付けば鳥居の近くまで行っていた背中を追いかける。
どうやら最近は林檎飴の屋台には蜜柑飴もあるようで屋台の前で悩んでいると、食った事が無い方にしたらどうだ、と言われ蜜柑飴を買ってもらった。
1人で食べた飴よりもずっと甘く、美味しく感じた。
「こういうのも乙ッてもンだろ、偶には」
「そうですね、とても楽しいです」
今までの梅雨よりもずっと良い思い出が出来そうな気がした。
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羽夜(プロフ) - おとーふくんさん» 小説を好きだと言ってくれてありがとうございます。完結するかは分かりませんがゆっくりと続きを書いていこうと思いますので、覚えていましたら応援してくださると嬉しいです。コメントありがとうございました。 (2021年10月8日 2時) (レス) id: 152f9f4ea8 (このIDを非表示/違反報告)
羽夜(プロフ) - おとーふくんさん» 約1年越しに好きと言ってくださってありがとうございます。長く放置してしまいましたがモチベも戻り言葉の数も自分では増えたと思います。返事が遅くなりすみませんでした、放置しておりましたがまた少し頑張ってみようと思います。 (2021年10月8日 2時) (レス) id: 152f9f4ea8 (このIDを非表示/違反報告)
おとーふくん(プロフ) - 今の日本に似てる感じが好きです!!もっと早くにこの作品の存在知りたかった... (2020年7月28日 21時) (レス) id: 2f2d7a1768 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:羽夜 | 作成日時:2019年8月5日 17時