捌ノ肆 幸せとは ページ37
【それはとても幸福な】
「もうそんなに叫ぶんじゃない。
腹の傷が開く。君も軽傷じゃないんだ。
竃門少年“まで”死んでしまったら、俺の負けになってしまうぞ。
こっちにおいで。最後に少し話をしよう」
「…」
「思い出したことがあるんだ。昔の夢を見た時に」
日が完全に昇る。山から顔を出した太陽は、脱線した汽車と朽ちる杏寿郎と二人の隊士を、暖かく照らしひだまりへと導く。
「俺の生家、煉獄家に行ってみるといい。歴代の“炎柱”が残した手記があるはずだ」
そこで、父を思い浮かべる。昔は優しくて、自分の憧れの父親だった。あの頃の父親に、杏寿郎は近付けただろうか。
「父はよくそれを読んでいたが……、俺は読まなかったから、内容がわからない
君が言っていた“ヒノカミ神楽”について何か……記されているかもしれない」
「煉、煉獄さん。もういいですから、呼吸で止血してください…。傷を塞ぐ方法はないですか?」
「無い。俺はもうすぐに死ぬ。喋れるうちに喋ってしまうから聞いてくれ」
涙の止まらない少年も、必死に泣くのを堪えて震える少年も、きっと鬼を必死に日から守る少年も。この死は刻まれてしまうから。
「弟の千寿郎には。自分の心のまま正しいと思う道を進むよう伝えて欲しい。父には体を大切にして欲しいと。
それから…______」
息を大きく深く吸い込んだ。朝日の香りが、傷だらけの肺に深く深く染み渡る。ちょっとだけ顔をしかめてから、もう一度笑顔で。
「竃門少年、俺は君の妹を信じる。鬼殺隊の一員として認める
汽車の中であの少女が血を流しながら、人間を守るのを見た。命をかけて鬼と戦い、人を守る者は。誰が何と言おうと鬼殺隊の一員だ
“胸を張って生きろ”
己の弱さや不甲斐なさに、どれだけ打ちのめされようと、心を燃やせ。歯を喰いしばって前を向け。
君が足を止めて蹲っても、時間の流れは止まってくれない。共に寄り添って悲しんではくれない。
俺がここで死ぬことは気にするな。柱ならば、後輩の盾となるのは当然だ。柱ならば誰であっても同じことをする。
若い芽は摘ませない」
どうか、幸多からんことを。
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ユリ(プロフ) - 出来ればでいいんですが、後日談的なものがみたいです (2020年8月26日 18時) (レス) id: ba2a71100d (このIDを非表示/違反報告)
セニオリス - ユリさん» 最後まで読んで下さり、本当にありがとう御座いました。またこの作品に顔を出してもらえると嬉しいです。 (2020年4月7日 21時) (レス) id: 353512f049 (このIDを非表示/違反報告)
ユリ(プロフ) - 完結おめでとうございます。最後まで感動しっぱなしでした (2020年3月2日 11時) (レス) id: ba2a71100d (このIDを非表示/違反報告)
セニオリス - アリスさん» 毎度毎度、遅くて申し訳ないです!!最近、スランプ中でして……。どうにか必死に更新をしたいと思います……!! (2020年2月23日 10時) (レス) id: 9ec8afc8ac (このIDを非表示/違反報告)
アリス - 続きがものすごく気になってそわそわして寝られません。更新頑張ってください (2020年2月21日 22時) (レス) id: ba2a71100d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:セニオリス | 作成日時:2019年7月8日 14時