検索窓
今日:2 hit、昨日:9 hit、合計:777,614 hit

捌ノ肆 幸せとは ページ37

【それはとても幸福な】


「もうそんなに叫ぶんじゃない。

腹の傷が開く。君も軽傷じゃないんだ。

竃門少年“まで”死んでしまったら、俺の負けになってしまうぞ。

こっちにおいで。最後に少し話をしよう」



「…」



「思い出したことがあるんだ。昔の夢を見た時に」



日が完全に昇る。山から顔を出した太陽は、脱線した汽車と朽ちる杏寿郎と二人の隊士を、暖かく照らしひだまりへと導く。

「俺の生家、煉獄家に行ってみるといい。歴代の“炎柱”が残した手記があるはずだ」



そこで、父を思い浮かべる。昔は優しくて、自分の憧れの父親だった。あの頃の父親に、杏寿郎は近付けただろうか。

「父はよくそれを読んでいたが……、俺は読まなかったから、内容がわからない

君が言っていた“ヒノカミ神楽”について何か……記されているかもしれない」



「煉、煉獄さん。もういいですから、呼吸で止血してください…。傷を塞ぐ方法はないですか?」



「無い。俺はもうすぐに死ぬ。喋れるうちに喋ってしまうから聞いてくれ」



涙の止まらない少年も、必死に泣くのを堪えて震える少年も、きっと鬼を必死に日から守る少年も。この死は刻まれてしまうから。

「弟の千寿郎には。自分の心のまま正しいと思う道を進むよう伝えて欲しい。父には体を大切にして欲しいと。

それから…______」



息を大きく深く吸い込んだ。朝日の香りが、傷だらけの肺に深く深く染み渡る。ちょっとだけ顔をしかめてから、もう一度笑顔で。

「竃門少年、俺は君の妹を信じる。鬼殺隊の一員として認める

汽車の中であの少女が血を流しながら、人間を守るのを見た。命をかけて鬼と戦い、人を守る者は。誰が何と言おうと鬼殺隊の一員だ



“胸を張って生きろ”



己の弱さや不甲斐なさに、どれだけ打ちのめされようと、心を燃やせ。歯を喰いしばって前を向け。

君が足を止めて蹲っても、時間の流れは止まってくれない。共に寄り添って悲しんではくれない。

俺がここで死ぬことは気にするな。柱ならば、後輩の盾となるのは当然だ。柱ならば誰であっても同じことをする。

若い芽は摘ませない」



どうか、幸多からんことを。

玖ノ壱 命が散るということ→←零ノ弐 水面涙天落下



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (717 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
1385人がお気に入り
設定タグ:鬼滅の刃 , 煉獄杏寿郎
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

ユリ(プロフ) - 出来ればでいいんですが、後日談的なものがみたいです (2020年8月26日 18時) (レス) id: ba2a71100d (このIDを非表示/違反報告)
セニオリス - ユリさん» 最後まで読んで下さり、本当にありがとう御座いました。またこの作品に顔を出してもらえると嬉しいです。 (2020年4月7日 21時) (レス) id: 353512f049 (このIDを非表示/違反報告)
ユリ(プロフ) - 完結おめでとうございます。最後まで感動しっぱなしでした (2020年3月2日 11時) (レス) id: ba2a71100d (このIDを非表示/違反報告)
セニオリス - アリスさん» 毎度毎度、遅くて申し訳ないです!!最近、スランプ中でして……。どうにか必死に更新をしたいと思います……!! (2020年2月23日 10時) (レス) id: 9ec8afc8ac (このIDを非表示/違反報告)
アリス - 続きがものすごく気になってそわそわして寝られません。更新頑張ってください (2020年2月21日 22時) (レス) id: ba2a71100d (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:セニオリス | 作成日時:2019年7月8日 14時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。