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捌ノ弐 幸せとは ページ34

【壊れてく】


倒れていく体を、必死に抱き止め炭治郎がいる場所まで飛び退いた。同じように上弦の参も痛そうに、大きく飛び退く。

あぁ、どうして。守ると誓ったのに、幸せにすると誓ったのに。俺が殺してしまった。致命傷だ、塞がることなく鮮血が溢れ出す。

「A……」



涙が零れた。

「A……、なんで……、どうして……」



彼女の白い指先が、ゆっくりと頬に触れる。髪をすっと耳にかけられた。彼女の手の甲は血塗れだ。こんなはずじゃなかったのに。

『……』



囁くように、彼女は告げると。杏寿郎が大好きな、何もかもを許してくれるような。優しい微笑みを見せた。

彼女の頬から涙が零れ落ちる。瞳がゆっくりと閉じられた。体温が急速に失われていく、杏寿郎の中で何かがプツンと切れた。

「Aッ!!」



理性ではなく、感情。それでも、まだ折れるわけにはいかないのだ。崩れ落ちるわけには、諦めるわけにはいかない。






“これで良いんです……これで全て良いんです……だから泣かないでください”



強く胸に抱き寄せた。涙が留まることなく、溢れ零れ落ちる。そんなはずがないのに。これで良いはずがないのに。

死ぬならむしろ、この俺。なのに、なのに君が死んでいいはずがない。守れなくて、ゴメン。俺のせいで、ゴメン。ゴメンな……。

「A……」



上弦の参の傷が癒えたようだ。苛ついたように、顔を歪めている。血管も浮き出ている。怒りが、あからさまに伺えた。

「その女、何をした……?」



「何を言っているんだ…!!」



「傷の治りが遅かった。あぁ、苛つく。ましてや勝手に死ぬなんて」



「………黙れ、お前にAの何が分かる」



勝手に死んだ?違うだろう。彼女は、この戦いで杏寿郎が死ぬことを理解してしまった。少しでも長く、一分一秒を生きてほしいと。

自分が死ぬことを覚悟して、杏寿郎に斬られることを分かって、鬼に一撃を与えて、一時退かせたのだ。Aは死んだんじゃない。

自分の生涯を生き抜いたんだ。なら、俺も答えなければ。Aが信じてくれたんだから。ここで折れることは許されない。

Aの身体をそっと地面に置いた。頬を撫でて立ち上がる。もう泣かない、影で支えてくれた彼女の最期の言葉だから。

「俺は俺の責務を全うする!!もうここにいる者は誰も死なせない!!」



一瞬で多くの面積を根こそぎ、えぐり斬る。

「【炎の呼吸 奥義 玖ノ型・煉獄】」



もう負けない。彼女の犠牲は無駄にしない。この刃に想いを籠めて振るう。

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ユリ(プロフ) - 出来ればでいいんですが、後日談的なものがみたいです (2020年8月26日 18時) (レス) id: ba2a71100d (このIDを非表示/違反報告)
セニオリス - ユリさん» 最後まで読んで下さり、本当にありがとう御座いました。またこの作品に顔を出してもらえると嬉しいです。 (2020年4月7日 21時) (レス) id: 353512f049 (このIDを非表示/違反報告)
ユリ(プロフ) - 完結おめでとうございます。最後まで感動しっぱなしでした (2020年3月2日 11時) (レス) id: ba2a71100d (このIDを非表示/違反報告)
セニオリス - アリスさん» 毎度毎度、遅くて申し訳ないです!!最近、スランプ中でして……。どうにか必死に更新をしたいと思います……!! (2020年2月23日 10時) (レス) id: 9ec8afc8ac (このIDを非表示/違反報告)
アリス - 続きがものすごく気になってそわそわして寝られません。更新頑張ってください (2020年2月21日 22時) (レス) id: ba2a71100d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:セニオリス | 作成日時:2019年7月8日 14時

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