検索窓
今日:6 hit、昨日:9 hit、合計:777,618 hit

漆ノ壱 かつて大切だったもの ページ30

【そしてまた一人】


杏寿郎には大切な妻がいる。それが、己の心を蝕むことを理解できているとは断言できなかった。どれだけ大切なのか。

失うことで、自身の感情が欠けてしまうということが。その一つが最愛の妻を失うこと。その事実だけが、魂を徐々に蝕んでいく。

「全集中の常中ができるようだな!感心感心!」



「煉獄さん…」



「常中は柱への第一歩だからな!柱までは一万歩あるかもしれないがな!」



「頑張ります…」



炭治郎に一切の迷いなく現実を叩き付けると同時に、瞳を凝らし、呼吸で止血できるかを探る。何かで刺したのか血管が破れていた。

「腹部から出血している」



まぁ、事情を知るのは後だ。サッサと止血をしてしまわなければ命すら危うい。呼吸の止血法も分からないのであれば、尚更だ。

「もっと集中して呼吸の精度を上げるんだ。体の隅々まで神経を行き渡らせろ」



「ハア…、ハア…ハア……」



まだ、感覚が掴めていないようだ。荒い呼吸を繰り返して、必死に体を探っているように見える。笑みを絶やさずに続ける。

「血管がある。破れた血管だ。もっと集中しろ」



やっとまともな表情に変わり、ドクンと体が跳ね上がる。笑みを消して、真剣な空気へと変えた。その傷口を瞳を凝らして探る。

杏寿郎にとっては意図も簡単なことだ。だが、癸から急に出世を遂げているとはいえ、鬼殺隊の末席には難しいのだろう。

「そこだ、止血。出血を止めろ」



痛みを堪えて止血を行っている。つまり炭治郎は傷口に集中してしまっている。止血のコツは呼吸に集中だ。額にトンと指を置く。

「集中」



「……ぶはっ、はあっ、はっ、?」



「うむ、止血できたな」



止血ができたようなので、いつも通りの表情に戻す。やはり新人は危なっかしいと、兄の気分に戻りながら苦笑した。

「呼吸を極めれば様々なことができるようになる。何でもできるわけではないが、昨日の自分より確実に強い自分になれる」



「…はい」



「皆、無事だ!怪我人は大勢だが、命に別状は無い。君はもう無理をせず…」



呆気に取られた顔の炭治郎に、杏寿郎は太陽のような笑みを浮かべるとしゃがんで手を曲げた。驚いたようにギョッとなる炭治郎。

“速やかに黄色い少年と猪頭少年、そして君の妹を連れて怪我の手当てをするんだ。Aのことも安全圏に連れていってくれ”

そう告げようとした瞬間に、轟音が轟いた。これが、彼の最後の戦いになることを。そして最愛の妻を失うことを。まだ知らない。

漆ノ弐 かつて大切だったもの→←陸ノ肆 走れ想うままに



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (717 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
1385人がお気に入り
設定タグ:鬼滅の刃 , 煉獄杏寿郎
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

ユリ(プロフ) - 出来ればでいいんですが、後日談的なものがみたいです (2020年8月26日 18時) (レス) id: ba2a71100d (このIDを非表示/違反報告)
セニオリス - ユリさん» 最後まで読んで下さり、本当にありがとう御座いました。またこの作品に顔を出してもらえると嬉しいです。 (2020年4月7日 21時) (レス) id: 353512f049 (このIDを非表示/違反報告)
ユリ(プロフ) - 完結おめでとうございます。最後まで感動しっぱなしでした (2020年3月2日 11時) (レス) id: ba2a71100d (このIDを非表示/違反報告)
セニオリス - アリスさん» 毎度毎度、遅くて申し訳ないです!!最近、スランプ中でして……。どうにか必死に更新をしたいと思います……!! (2020年2月23日 10時) (レス) id: 9ec8afc8ac (このIDを非表示/違反報告)
アリス - 続きがものすごく気になってそわそわして寝られません。更新頑張ってください (2020年2月21日 22時) (レス) id: ba2a71100d (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:セニオリス | 作成日時:2019年7月8日 14時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。