【煉獄杏寿郎】俺は君に初恋を捧げる

肆ノ参　最後に見た姿 ページ21

【サヨナラと告げよ】


屋敷の門の前には、煉獄杏寿郎夫妻と千寿郎。今日がその任務の日なのだ。薄紅色の花が祝福するかのように、舞っている。

「行ってくる」



『千寿郎、決して無理はしないで』



「はい、義姉上。お気をつけて」



頷く千寿郎だが、微笑みながらも眉を眉間に寄せた。嫌な予感がする。根拠もないが、ゾワリと全身の毛が逆立つような感覚がする。

背中を見せて歩き出す二人の姿。ハラリハラリと薄紅色の花弁が舞った。まるで、命のひとつひとつを零れさせるかのように。

「……ぁ」



兄上、義姉上、という言葉が出てこない。喉に引っ掛かるようにして、音となっては出てきてくれない。花が視界を一瞬塞いだ。

「兄上、義姉上！」



どうか



「怪我しないでくださいよ！」



お願いだから



「約束ですからね！」



生きて



「義姉上の、料理食べたいんですから！」



帰ってきて



「お願い、ですから……」



花弁がハラリハラリと風に舞う



「兄上！」



手を大きく振った



「義姉上！」



精一杯の微笑みを浮かべて



「“いってらっしゃい”」









それが、最後に見た姿だった。

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