標的69 エンジェル・トランペット−１ ページ28
山本視点
ぼんやりと頭が働き出して、俺の意識は現実に引き戻された。
目を開くと、目の前には麗羅が。
まだ意識がはっきりしていないまま上半身を起き上がらせ、麗羅と向き合う。
と、麗羅の数メートル後ろでナハトが手に炎を灯しているのが見え、ぼんやりしていた俺の頭は完全に覚醒した。
ナハトの手から、ラッパの形をした花の付いた太い茎が伸びる。
「危ない！」と云う俺の声は、何の役にも立たなかった。
ぐちゅ、と嫌な音を立てて、太い茎が麗羅の脇腹を貫通する。
月白色のマントに、白い花に、麗羅の紅がべったりと付く。
倒れそうになる麗羅の身体を受け止める。
すると、微かに『変化』と囁く声が聞こえた。
殺気を感じて、咄嗟に麗羅から離れる。
棍が空気を切った。
｢おいっ、敵は彼方だぜ？｣
ナハトのいる方を指差す。
しかし麗羅は、其方を見向きもせずに俺に棍を振り上げた。
慌てて避けると、傍にあった樹の幹に棍が刺さる。
麗羅がそれを抜く隙に、俺は落ちていたバットを拾い上げた。
「麗羅、」呼び掛けるも、麗羅からの反応は無い。
様子が可笑しい。
俺は遠くで厭らしい笑みを浮かべているナハトに視線を向けた。
｢ナハト、コイツに何したんだ｣
｢エンジェル・トランペットと云う花を知っているかい？｣
よく分からない事を聞き返され、俺は首を傾げて「知らねーな」と答える。
ナハトはくつくつと笑いながら、手に持った白い花を弄る。
｢この花の名前だよ。
ナス科、キダチチョウセンアサガオ属｣
話が見えない。
頭にはてなマークを浮かべると、ナハトは弄っていた白い花を此方に向けた。
｢綺麗な花には毒がある。
この花にも毒があるんだよ。
幻聴、錯乱、意識喪失……色んな作用があるのだけれど、強い催眠作用もあるんだ。
『催眠ハーブ』とも呼ばれていてね、『意識はあるけど自分の行動に対する自覚が無い状態』にさせるんだ。
生きたゾンビだよ、素晴らしいよね｣
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作者名：レイチェル | 作成日時：2018年10月19日 17時
