標的63 黄のチョーカーをした猫−２ ページ11
麗羅視点
男が樹から飛び降りて、目の前に着地する。
うんと伸びをしてから、「ふにゃあ」と大きな欠伸をしながら肩の関節をぱきぽきと鳴らす。
その余裕ぶった態度に、ボクはフードの下で顔を顰めて尋ねた。
｢君が次の刺客って訳だ。
名前を訊いても？｣
｢ナハト。ああ、名乗らなくて良い。
一々倒す奴の名を憶えたらきり無いしな｣
｢大した自信だな｣
｢怖いんなら、其方全員で掛かって来ても良いんだぜ？｣
｢いいや、ボク一人で行くよ。
君はボクが倒さなきゃいけないんだ｣
棍先をナハトに向ける。
「俺も、」言い掛けた獄寺を片手で制した。
『物語』には記されていなかった、ボクにとってはイレギュラーなナハト。
人柄も能力も未知数だが、此処で他の人達に余計な体力を使わせる訳には行かない。
ボクと獄寺の様子を見ていたナハトは目を細め、口角を上げながら跳躍を始めた。
地面を蹴り、凄まじい速さで襲い来るナハトの拳には、黄色の死ぬ気の炎。
ナハトが死ぬ気の炎を扱える事に驚きつつも、ボクは右手側にある林の方へ避ける。
ボクが一秒前にいた場所は、ナハトの拳に宿った死ぬ気の炎によって燃やされていた。
みしみし、と何かが撓る音、「麗羅！」主君の慌てた声。
自身の影を大きな影が塗り潰し、真上を見ると大空いっぱいに樹の幹が広がっていた。
｢ようこそ、『俺の領域(ピアンタ・アンビト)』へ｣
気が付くと、四方八方を樹々に囲まれていた。
複雑に絡み合う樹々の枝や幹は、どう見ても自然では有り得ない形に成長している。
それも僅か数秒程で。
ナハトの言う通り、此処は意図して造られた空間と云う事か。
してやられたと舌打ちをする。
およそ二十平米もある広大なこの領域に立っているのは、ボクとナハトの二人だけ。
ナハトは薄く笑った。
｢一対一でやるんだろ？ 早くやろうぜ｣
ナハトは再び、拳に黄色の死ぬ気の炎を灯した。
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作者名：レイチェル | 作成日時：2018年10月19日 17時
