百五十二歩目。 ページ3
―Aside―
コンコンッ
「A、入っていいか？」
心操くんだ。いつもはノックなんてしないのに。気を遣わせてる。
会いたい。でも、会ってどうしよう。
今は上手く笑えない。どれだけ隠しても心操くんにはバレる。
心配させたくない。可哀想だと思われたくない。
私は幸せだ。未来さんに会えなくなって確かに寂しいし悲しいけど、不幸じゃない。
不幸なんかじゃない。
私は幸せでいないといけないんだ。
だって、みんながそう望んでる。
「にゃぅ...」
ベッドに腰かけて動かない私を心配してししゃもがすり寄ってきた。
いつもは心操くんの方に走っていくのにな。
心操くん、どうしよう。まだ待ってくれてる。
返事だけでもしないと、心配させたくないなんて心の中で思ってったって意味ない。
なんて言おう。会いたいのに、会いたくない。
今まで心操くんを無視することなんてなかったのに。インターン中だってずっと会いたかったのに。
そばにいて欲しいのに一人でいたい。声を聞きたいのに何も聞きたくない。
矛盾してる。どうしたいのか自分でも分かんない。
「A、ごめん。勝手に入るぞ」
『ぁ、まって、しんそうくん、まって』
「......ごめん、待てない」
ガチャッ
『な、んで...』
「ごめん」
『私、まってって言ったのに、』
「うん、ごめんな」
違う。心操くんは悪くない。謝ったらダメだ。
何してるの私。ちがうでしょ、文句言える立場じゃないでしょ。
今日は平日で、今は夕方。私は公欠で行ってないけど、心操くんは今日も学校に行ってて。
いつもなら特訓してる時間。分かるでしょ、邪魔してるんだよ。
心操くんはヒーローになるんだよ。自分の意志でなるの。その為に今すごく頑張ってる。
私が誰よりも心操くんを応援してると思ってる。
それなのに、なんで私が邪魔してるの。
心操くんがここにいるのは私を心配してくれてるから。だから、私が"大丈夫"にならないと。
『...謝んないで、心操くん悪くないじゃん？私こそごめんね！最近バタバタしてて、酷い顔してるからさ〜。心操くんに見せらんないなぁって』
「A」
『あっ、ダメだよ！それ以上近づいたら暗くても見えちゃう！ほら、心操くんも特訓行かないとでしょ？相澤先生も戻って来てるはずだし！』
「今日はお休み。前から決まってたから気にしなくて良いよ」
『でも、えっと、じゃあ、』
「A」
心操くんの声が目の前で聞こえた。
私を呼ぶ、やさしい声。
▽
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作者名：えると。 | 作成日時：2023年3月30日 22時
