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本人は、なんにも知らないんだろうなぁ。
ほら今だって、こんなに純粋で少しも濁ってない目をきらきらさせて、しっぽをぱたぱたさせて、こっちを見ている。
…かわいい。
とてつもなくかわいい。
名前はない、と聞かされたとき、私が名前を付けてあげたいという強い衝動にかられた。
この子に似合う、一番いい名前を付けてあげるんだ。
「り、いぬ、くん…!」
「それ、俺の名前?」
こてんと首をかしげて聞いてくる。
「うん。今日からよろしくね、りいぬくん。」
上手く笑えてるかな。
冷たくないかな。
施設にいるのは大人の男の人ばっかりで、子どもは誰一人いなかった。
人生で初めて出会った、年下の子。
「おねーちゃんの名前は?」
「わたし、は、A…だよ。」
自分の名前を言うなんて、何年ぶりだろう。
「よろしくね、A!」
莉犬くんが私の名前を呼んだ瞬間、殺風景でモノクロの世界が色づいて見えた。
初めて見たその世界は、強い風に吹かれてカラフルな花びらが舞ったかのように、華やかだった。
その日から、びっくりするくらい毎日が変わった。
研究所から帰ってきて、部屋のドアを開けると、その瞬間莉犬くんが飛びついてくる。
「Aおかえりっ!!」
私をぎゅっと抱きしめて、元気な声で莉犬くんが言ってくれる。
人生で初めて誰かと一緒に寝て、誰かの体温を肌で感じた。
人生で初めて誰かと一緒にご飯を食べて、誰かがいるにぎやかさを知った。
人生で初めて誰かと一緒に散歩に行って、誰かと歩く世界の美しさを知った。
莉犬くんは、人生で初めて、をたくさんくれた。
莉犬くんと一緒にいると落ち着いて。
胸がときん、ときん、ってスキップするみたいに楽しげな軽い音を立てて。
研究と論文がたまって帰れないと辛くて、寂しくて、とてつもなく会いたくて。
私と莉犬くんの関係はなにか、と聞かれたら口ごもるしかない。
ただの友達ってわけではないし、血がつながってるわけでもないし、
ただの居候ってわけでもないし、…ペットでもないはず、たぶん。
でも、ひとつだけ確実なことがある。
莉犬くんは、世界でたった一人の私が愛する大切な人ってこと。
約一か月前、がらにもなく、バレンタインデーにチョコレートを渡しちゃったくらいに。
そのとき、莉犬くんは私に聞いた。
「ねぇ、Aはずーっと俺のそばにいてくれるんだよね?」
不安そうに私を見上げて。
答えなんて一つしかない。
「うん、もちろんだよ!」
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雨上がりのcrew(プロフ) - ところで、甘味没収のときのセンラさんは夢主ではなく他の人と結婚をしていたのでしょうか、、、?隠し持っていた結婚指輪と書いてあったので、、、 (2019年7月16日 0時) (レス) id: 11f12a305b (このIDを非表示/違反報告)
雨上がりのcrew(プロフ) - すごい。。。この作品私得←これからも更新頑張ってください!! (2019年7月16日 0時) (レス) id: 11f12a305b (このIDを非表示/違反報告)
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