第六話 ページ6
泣き声が玄関に響く。
本当に、おーい、おーいという擬音がついてもなんら違和感が無いくらい。
『…父さん、母さん。泣きすぎだ…いくら引っ越しと言えど2年したらまた戻ってくるから』
「だ、だが…!!レイ〜!!」
「…いつでも戻ってきていいからね!レイ!」
『分かっている、ありがとう』
ズビズビと鼻水を啜りながら涙を流すのはレイの両親。軽いトランクケースを引っ張り玄関の扉を開けようとするレイにずっと別れの言葉を投げ続ける。
『そろそろ電車が出る時間だ。行ってきます、父さん、母さん』
最後にレイが一言告げると、より一層後ろからの声が大きくなる。苦笑を溢したレイは玄関を出た。
家を出ると少し肌寒い風が頬を撫でる。無意識にトランクケースを握る手が強まった。
これから横浜に行って、また新しいバイト先を見つけて…と考えを巡らせながら落ち葉を踏み締めて行く。
『それにしても、うん……怒涛の日々だったな』
正直に言うとレイは疲れ切っていた。突然バイト先の社長から呼び出されたと思ったら「横浜へ行ってほしい」だなんて。
身勝手にも程がある。もちろんレイは反対した。『非正規雇用の自分が行く理由が分からない』と。
すると返ってきた返答は
「君が一番バイトの中で実績がある。他の地へ行って経験をもっと積み重ねてきなさい。そうすれば、君を正式に雇ってあげよう」
だった。
レイとしては願ったり叶ったりの状況で、直ぐにオーケーの旨を伝える。
それからバイトの仲間達とのお別れ会(仮)やら役所へ書類を出しに行くやら、家具を運ぶことやらを全て二日間丸々かけて行なったのだ。さらに休む暇も無く、今から横浜へ向かわなければならない。
はあ、と息を吐くとまだ色は透明なまま。これが後一ヶ月ちょっとで白くなるのだから、時間の流れというのは本当に速い。
今年の秋は食欲の秋でも読書の秋でも運動の秋でもない、別れの秋であった。少々意味が違うかもしれないが、それもまた良いなとレイはクスクスと笑う。
最近は少し物騒な事件を耳にするからか、横浜に行くのには多少なりとも不安が募る。
何事もなければいいな、なんて心の中でレイは呟いた。
電車が来る。
駅のプラットフォームに鉄が擦れる音が鳴り響いた。
電車内は外より幾分か暖かい。
束の間の休息。
レイは横浜に着くまで寝ることに決めた。
目を瞑って、椅子に体を預ける。
__暗転。

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第二の羊羹(プロフ) - 百華夜さん» 百華夜さんコメントありがとうございます!!わわわ、とても嬉しいです!!羊羹照れちゃう((()。ごめんなさいいらないの分かってましたごめんなさいっ。これからも更新頑張ります!ありがとうございます〜!! (2023年7月16日 23時) (レス) id: f348b0afa9 (このIDを非表示/違反報告)
第二の羊羹(プロフ) - 。さん» 。さんコメントありがとうございます〜!ほんとですかっ。その言葉が何より嬉しいです!励みになります!! (2023年7月16日 23時) (レス) id: f348b0afa9 (このIDを非表示/違反報告)
百華夜(プロフ) - 序盤?だけで凄い物語を繰り返し読めるこの面白さ!ドスくん可愛い!!ゴーゴリくんも可愛いよ!!お体に無理せず頑張ってください!応援してます!! (2023年7月16日 18時) (レス) id: 4a0468ad2f (このIDを非表示/違反報告)
。 - めっちゃ面白いですね!続きが気になります!!更新頑張ってくださいっ!応援してますっ!! (2023年7月16日 17時) (レス) @page5 id: 26c600857a (このIDを非表示/違反報告)
第二の羊羹(プロフ) - 黒灰白有無%さん» うわわわわコメントありがとうございます!!!!実はその作品のパスワードを忘れてしまって…更新もできない状態で……お恥ずかしいです、、、。ありがとうございます励みになります!!!! (2023年7月16日 10時) (レス) id: f348b0afa9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:第二の羊羹 | 作成日時:2023年7月10日 20時