処刑台にて【日々樹渉】 (ページ2)

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悲喜劇ページ2

けれど臆病だから、自分の中の、彼との間の、何かが変わってしまうのが怖かった。
だから、その正体が何かも知らないまま、ずっと自分だけの世界に生きた。

その結果彼と同じ道を辿るのだから、皮肉なものだ。

『私は、たとえ世界を敵に回した悪役であろうと、それでも笑っていられるわ。それが私にとって、演者にとって最高の幸せだもの』

昔誰かに語った、自分の言葉が脳裏に浮かぶ。それは古くからの友人に語ったのかもしれないし、赤い目をした"怪物"に語ったのかもしれない。それを聞いた彼は酷く悲しそうな、憐れむような目をこちらに向けたのだ。
それは確か、砂時計の上の楼閣が、虚しく崩れ去ってしまったあの舞台の後だった。

そんな結末を迎えた人形師も、人魚も、道化師も。『五奇人』と呼ばれた彼らの結末を、ずっと客席で見ていた。触れることも出来ないあの世界で、怪物と呼ばれた彼らが、英雄と呼ばれた友が、残酷な悲喜劇を紡ぐその姿を。

＿＿本当に、友は、英智は正しかったのか？

「お困りのようですね、女王陛下」

答えを求めるように、舞台に手を伸ばしかけたその瞬間、聞こえた声はAを追憶から現実へと引き戻す。もしくは、後ろ髪を引く追憶の囁きだったのかもしれない。

振り向いた先には、仮面をつけた一人の男がいた。
長い銀色の髪が、ステージライトに照らされる。ゆらゆらと揺れる影は、私に似ていた。
流れていたエチュードと薔薇の香りが、何かを急かをように喉の奥へ染み渡っていく。演じろと、そう迫ってくる。

「いいえ、この私に困ることがあるとお思い？何せ私は女王よ、富も名声も＿＿なんだって手に入るもの」

この即興劇に、何の意味があるのかは分からない。ただ、仮面の下の口元が、満足そうに弧を描いた。
彼は膝まづいて、こちらに一輪のバラを差し出す。薔薇の香りが、そっと鼻を撫でた。

「私は愛を伝えに来たのです」

「民衆の怒りを受けて、悲喜劇の中で断罪されていく貴方に」