Rain

S._26 ページ26

はぁ、と小さく息を吐いた。
間違いなくあたしは犯罪の協力者となった。



覚悟を決めて生きないといけない。
意識もしていなかった警察という職業に怯えながら。
もしかしたら大毅は怯えなどなさそうだけど。



『あーあ。隠してもうた』



戻ってきたあたしに微笑みかける。
それに対して負けないよう、微笑み返した。



｢前にも隠してるから同じだよ｣



縛ったガーゼの様子を見ようとソファーに近づくと
伸ばした腕を掴まれて大毅の方に引き寄せられた。
相変わらず光が宿らない漆黒の瞳。
その中に少しだけ、炎が見えた気がした。



炎。
それは、意志を表す。
強い意志だ。



｢…どしたの｣


『俺って異常なんやろ？』



そんなことない、なんてのは言えなかった。
何を通常にするかの定義によるけど、人を殺して楽しいと言える人間はこの世界では明らかに異常と呼ばれるから。



殺人は最も重い罪である。
その中でも自覚がない犯罪者は、本当に怖い人物の1人になる。



大毅はそれに入ってしまう。



｢はっきり言ったらそうだね｣


『じゃ何でAは俺から離れようとせんの？』


『俺正味、1日2日で帰ってこうへんくなるやろなと思ってた』



今度は水が見えた。
小さく細い流水。
それは多分、本人も分かっていない悲しみ。



全く読めなかった感情が少しずつ。
見せてくれているのだ。



｢何でだろうねえ…笑｣


『…Aにしか、優しくされたことない』



顔を顰めながらそっと起き上がった。



『ぎゅーして。A』



両腕が、あたしに向かって伸びてきた。

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