48：もつべきものは ページ9
TRIGGERの楽屋にて。
天は椅子に座ったままぼーっとしていて、楽は打ち合わせ前の最終チェックのため、台本を確認していた。龍之介が外に出ているため静かだ。
「桜井と何かあったのか」
楽が台本に目を落としながらさりげなく聞く。
天は彼の言葉を無視したが、沈黙が破られたついでに口を開いた。
「楽は女の子を泣かせたことある？」
天が聞くと、楽は台本から顔を上げずに答えた。
「ないな」
「ごめん。泣かされる側だったね」
「泣いてねえよ！」
思わず楽が台本から顔を上げる。天にはまだ人をからかう余裕があるようだった。
「じゃあ、女の子を笑顔にする方法は知ってる？」
そこで話が終わるかと思ったが、天はまだ話を続けた。
「それはおまえの得意分野だろ」
楽が投げやりに言うと、天は顎に手を当てた。いつもの癖だ。
「そうだね。ファンを笑顔にすることはできる」
それは天にとって最も大切なことだった。
ファンをがっかりさせるようなことはしたくない。
「好きなものをやるとか」
「モノで釣りたくない」
ツンと返事をすると楽は呆れたように天を振り返る。
「桜井は何が好きなんだ？」
――はあ。
「桜井さんの名前は一度もだしてないよ」
Aの名前がでて深いため息を吐く。一回目は無視できたのに、自分で口にしたせいで急に泣き出したAのことを思い出してしまった。
怒って泣くのは仕方ないとして、おめでとうと言っただけで泣くのだから、もうAのことはよくわからない。どの言葉が琴線に触れるか、怯えるのは天のほうだった。
「難しいな」
「難しいでしょ」
二人してしばらく考えたがいい考えは浮かんでこなかった。
「そういえばアイラビットが」
そこで急に楽が台本を机に置く。
「なに？」
「一人来てないらしい」
「は？」
天はそれを聞いて、はっとした。
――これだ。
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作者名：兎田夏
| 作成日時：2017年1月1日 0時
