72：取り残されて ページ33
足りないのは、音葉の笑顔だけだと思っていた。
「アイラビットさん、そろそろ用意はいいですか？」
生放送当日。アイラビットの控室に顔をだしたスタッフが、少し苛立った様子で問いかける。Aはびくびくしながら首を横に振った。控室にはAしかいなかった。
「あの、その、すみません。まだ二人が来てなくて・・・・・・もうちょっとだけ、待ってもらっても、いい、ですか」
来ていないのは音葉だけではなかった。本番が近づいてもユウリが顔を見せない。二人に連絡を取ってみたが、どちらも電話にはでなかった。ユウリに至っては電源が入っていない、というメッセージが流れた。
「あと五分ですよ」
時間押してるんだけどな、というスタッフのぼやきがAの耳に届く。
マネージャーは他の仕事を終えて今こちらに向かっているところだ。あともう少し。もう少し待てば一人ではなくなる。こんなにつらい気持ちになったことは今まで一度もなかった。いつも誰かがAのそばにいてくれた。
――九条さん。
Aは連絡先の中にある天の名前を見つめた。
――『何かあったらここに連絡して』
今がそのときなのだろうか。天のことを頼りすぎではないか？
彼は言っていた。仲間のことはわからない、と。
アイラビットの問題にTRIGGERの天を巻き込んでいいはずがない。だからとても迷った。
「ごめんなさい」
迷ってから彼の連絡先につないでみた。
しばらく呼び出し音が鳴り続けたが、天はいっこうにでない。
――だれもいない。
この世界で一人ぼっちになった気分だ。
「ユウリ、音葉」
大切な仲間の名前を呼んでも、Aの名前を呼んでくれる人はいなかった。
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作者名：兎田夏
| 作成日時：2017年1月1日 0時
