61：あなたしかいない ページ22
数日後。
「へ？」
マネージャーからの突然の電話にユウリが間抜けな声をだす。
いくつかのやりとりのあと通話を切ったユウリは、珍しく浮かない表情だった。
「音っちが今日は来れないって」
それを聞いて、Aの手が震えた。
「なんで・・・？」
「いや、理由はわかんない。どうしてもいけないって、マネージャーが」
ユウリも混乱しているようだ。おそらくマネージャーも本当に理由を知らないのだろう。
――音葉。
Aは先日から様子がおかしかった音葉のことを思い出す。嫌な予感がしていた。
「音っち、どーしたの？ なにか知ってる？」
ユウリにそう聞かれてAは俯いた。心当たりならたくさんある。一番可能性が高いのはAが負担をかけたことだろう。約二週間ほど音葉は多忙だった。それで体調を崩したか、Aに嫌気がさしたか。
「わたしの、せいかも」
「ええ？ どういうこと？」
ユウリは大げさに驚く。その反応にAの声はだんだん暗くなる。
「迷惑、かけたから」
「いや、音っちはどっちかっていうとAに頼りにされて喜ぶタイプだと思うけどな〜。それよりあたしのほうがさんざん迷惑かけてるし、この前も殴られそうになったし」
ユウリも一応反省はしているらしい。確かにユウリが休んだことによって音葉の仕事が増えたわけだが、Aは年下の音葉にすべてを任せてしまったことをいまさら後悔する。
「まあ、今日は二人でがんばるか！ 音っちの分もね！」
ユウリが意気込むと、Aは静かに頷いた。
「うん」
けれど手の震えはおさまらなかった。この流れをAは一度経験している。
Aにとってアイラビットは壊れてはいけない居場所だった。三人がそろっているからAの心が安定していた。ユウリと音葉が言い争いになっているぐらいがちょうどいいのだ。そこにAがいて、二人を見守っていられたらそれでよかった。それが、よかった。
この手の震えを止めてくれる人を、探している。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 178人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：兎田夏
| 作成日時：2017年1月1日 0時
