第1話 ページ2
【健人目線】
珍しく仕事が日中に終わって、夕暮れとともに家に帰宅すれば、俺とは反対にバタバタと慌てて出掛ける支度をするAがいた。
いつもよりもオシャレな格好をして走り回る妹の姿を見て、なんとなくこの後の予定を察した。
「デート？」
「うん。…無事に今日で1年なの」
「あー、そうなの？もう1年だったんだ。早いな〜、おめでと」
「えへへ。ありがと」
俺の妹であるAの彼氏は、俺と同じグループで活動している菊池風磨だ。
正直、同じグループメンバーと妹がまさか付き合うとも思ってなかったが、Aから話を聞く限りは毎日幸せそうで俺も嬉しい。
「いってきまーす」
「はいはい。気を付けて」
バイバイと手を振って家を出て行くAを見送って、俺は自室へと戻る。
ベッドに腰掛け、ふと机に置いてある写真立てを見る。
そこには、高校生の時に撮影した俺と菊池とAの制服姿。
「……早いな、ほんと」
3人とも既に大学まで卒業していて、高校生時代のこの写真はなんとも懐かしい。
「このまま、家族になったりすんのかな」
写真に写る菊池の姿を見て、思わずクスリと笑ってしまう。
もし、このまま順調にAと菊池の関係が続けば、菊池は俺の義理の弟になる事になる。
「それはそれで変な気分だけど…」
*
「ただいま。…お兄ちゃんはいってらっしゃい？」
翌朝、朝食をとっているところでAが帰宅してきた。
「おかえり。今日はメンバーと仕事だよ」
「ふふっ、そっか。…見てみて、風磨から貰った！」
じゃん、と言いながら見せられた右手の薬指には紫色の宝石がついた指輪が光っていた。
「風磨カラーのアメジストの指輪貰ったの。メンカラとか気にしないって言ってたのに、ちょっとこれは嬉しいよね」
幸せそうに話すAを見て、俺も自然と顔が綻ぶ。
「朝から惚気んなよ。これから菊池に会うっつーのに」
「ごめんごめん。だって嬉しかったんだもーん」
ご機嫌な様子のAを見て、朝食を食べ終えた俺は立ち上がる。
「いってらっしゃーい。風磨によろしくねー」
ブンブンと子供のように手を振るAに、手を振り返して俺は家を出た。
この時は、あんな事が起こるなんて誰も想像していなかった…。
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作者名：ルイ | 作成日時：2019年5月26日 20時
