「私の世界」 ページ23
豪勢な和食のあと、私はそのまま風呂場に通された。
そこは風呂場というよりは余りに広く、旅館顔負けの豪勢さで、正直脱衣所の時点で気が引けた。
しかも、そのバカでかい浴場には私ひとりだけ。
旅館の温泉を独り占めしてるような優越感はあったけど、それにはしゃぐ気力もなかった。
なんとなく躊躇してつま先からゆっくりと湯の中に浸けていくと、じわりと温かいそれに触れた部分がゆっくりと解けていく感じがした。
勿体付けつつもようやく首まで沈めて、謎の達成感にため息をつく。
めちゃくちゃ適温だし、無意識にも体に蔓延ってたらしい緊張が和らいだ、気がする。
緊張って……今更?
手を掬うように持ち上げると、指の間からとろみのあるお湯が流れ落ちた。
なんかちょっと黒いし、入浴剤入れてくれたのかな、位に思ったけど考え直す。
まさかと思って反対側の淵に目をやると、かけ流しの器具が目に入って流石に笑った。
いやいや。
民家に源泉引いてあるって有り得んの?
近くで湧いてるってこと?
ってかまずここどこ??
黒子との歩路を思い出してみるけど、確かな道順は思いだせなくて。
新宿からそんなに歩いてない、多分。
言っても一駅、二駅分くらい.......池袋?新大久保?原宿?
いずれにせよ、そこら辺で温泉が湧くなんて話聞いたことないし、全く見当がつかない。
ちょっとゾッとした。
あまりに突拍子も無いことが続きすぎて感覚が麻痺ってたのかもしれないけど、ようやくこの家の、奇妙さ、みたいなものが身に迫ってきた。
浮世離れしたような雰囲気を持ってる黒子に連れられて来たもんだから、この家が現世とは違う場所にあるって言われても信じるかもしれない。
ってかむしろ、信じたい。そうであってほしい。
それでそのまま戻りたくない、表面的な自己表現しか出来ない私と、そんな私を消費する人間たちがいる、あんな世界には。
「……中二病かよ」
しょうがねぇわな、だって中二だもんな。
この小さいことを大袈裟に捉えていちいち悩む癖が、大人になれば治る一過性のものだっていうのは、正直疑わしい、と思う。
世間を斜めに見る視点は、これから先もずっとついて回る気がして、気分悪くなった。
……社会に比べて私の世界がどれだけ小さくても、それが私の全てであることには変わりないじゃんね。
それを支える柱の1つが壊れとき、それをどう修復すればいいのか、大人たちは教えてくれなかった。
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水団子(プロフ) - 歌柚さん» 話の展開を褒めて頂き光栄です、、!!!拙い文に亀更新で申しわけありませんが、楽しんで頂けると嬉しいです!コメントありがとうございました! (2021年8月31日 3時) (レス) id: 4f5e2162c5 (このIDを非表示/違反報告)
水団子(プロフ) - 光華さん» めちゃくちゃ嬉しいです、、恐ろしい程更新が遅いですが、最後までお付き合い頂ければ幸いです。コメントありがとうございました! (2021年8月31日 3時) (レス) id: 4f5e2162c5 (このIDを非表示/違反報告)
歌柚 - コメント失礼します。ストーリや話の展開が面白くて楽しく見させてもらってます!ストーリ更新楽しみに待ってます!! (2021年7月13日 21時) (レス) id: f33fb75788 (このIDを非表示/違反報告)
光華(プロフ) - 好きです!更新応援してます! (2021年5月16日 10時) (レス) id: a571740452 (このIDを非表示/違反報告)
水団子(プロフ) - よもぎお餅さん» 黒子くんのお家に行こうと尾行したら見失った、というエピソードが好きでそこから色々と捏造を重ねたらこんな黒子くんが出来上がりました(^-^)主人公らしからぬミステリアスさが魅力だと思っています!コメントありがとうございました!! (2019年6月19日 20時) (レス) id: f26d4bb807 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:水団子 | 作成日時:2016年9月16日 0時