#10 ページ10
.
『え、払うよ?』
「いいの!もう、Aは優しすぎ。
昨日のもあるんだし、たまには私にも甘えてよ」
『…じゃあ、今日だけ』
「うん。よろしい」
財布を出させてくれない実紅に渋々折れて結局奢ってもらうことに。
レジ打ちもあの藤井さんで、ちょっと嬉しそうだからよかったのかな。
たまには甘えるのもいいのかもしれない。
『ありがと』
「どういたしまして。
その代わり、今日ちゃんと連絡するんだよ?」
『…』
「忘れてたね。念押ししてよかった」
『実紅宛だったら即ライン送るから起きててね』
「どうかなー、寝てるかも」
『ええ、困るって!』
「分かった分かった、起きてるよ。
だから王子にちゃんと連絡しなさいね」
『…うん』
お互いの帰路の別れ道でそんな会話を交わす。
じゃあね、と実紅に手を振ったあと、去っていく後ろ姿に少し戸惑った。
…私、一人で連絡できるかな。
誰もいない帰り道は、なんだか寂しい。
どうせならと思って登録した電話番号をタップした。
「はい」
『あ、えっ、と』
ワンコールで聞こえてきた人の声に驚いて、言おうと決めていた言葉がどこかに飛んでいった。
前より少しだけ低い声に、ドキドキしてる。
ああ、おかしいな、やっぱり。
『昨日、は、ありがとうございました』
とりあえずなにか言わなきゃって出た言葉がこの一言だけ。
暫く続いた沈黙に、恥ずかしくなる。
「あの、もしかしてやけど」
「俺が、番号渡した人、ですか?」
気づいてくれた。
それだけで、馬鹿みたいに嬉しくなる。
気づきたくなかったな。
今までの数人に抱いてきた気持ちと、似てる。
ぴったり重なるわけじゃないけど、この感じ。
無性に会いたくなる衝動が、似てるんだ。
『その、もしかして、です』
絞り出した声は情けないくらい震えてる。
こんなんで大人だなんて、とても名乗れないや。
やっぱり、気になる人ができるって怖い。
自分が別人になっていくみたい。
「…よかった。昨日連絡来やんかったから」
『あ、ごめんなさい。
本当に私なのかとか、色々と収集がつかなくて…』
「ふふっ、合ってますよ。
そんなに悩まんでよかったのに」
甘くて溶けそうな声。
好きだなあ、この声と関西弁。
今までなかった感じがして、ちょっとくすぐったい。
362人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「ジャニーズWEST」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ