常夏《赤》 (ページ9)

今日:2 hit、昨日:3 hit、合計:111,577 hit

#9 ページ9

.

『やっぱり、実紅宛だよ』

「私じゃない！絶対！」

『でも…』

「せめて登録しなさいよ。可哀想に」

料理を待ってるときに携帯を触ってるなんて、なんか申し訳ない。

でも気になっちゃって仕方ないから、許してほしい。

新しく追加された番号を指でなぞってみる。

なんか、変な感じ。
恋焦がれてた学生時代に戻ったみたい。

『ん、登録した』

「今日帰ったら連絡しなよ？」

『え、今日？』

「今日しなきゃいつまで経ったってしないでしょ。
早いうちに念押ししとかなきゃね」

『…よくお分かりで』

「そりゃあもう長くいるからね」

頬杖をついて「頑張れ」なんて言われたら、現実味が一気に増して恥ずかしくなる。

熱くなった顔をぱたぱたと扇いで熱を冷ます。

ニヤニヤとした実紅のことを、ちょっとだけ睨みたくなった。

「お待たせしました」

少し低いその声にあからさまに反応する実紅。

こうして見ると、私の目にはやっぱり、恋する乙女はどうしようもなく可愛く映る。

藤井、と書かれたネームプレートを見て、名前は案外普通なんだな、なんて笑ってしまった。

「え、なに？」

『ごめんごめん、つい。
藤井って結構多い名字なのにな、って』

「あー、確かに」

″でもあんな格好いい人なんてそういないよね″

彼の後ろ姿を見てそう呟いた実紅に振り向かない人がいるとしたら。

その人は、別の意味で物好きだ。

『それ、美味しい？』

「これ？美味しいよ」

『ちょっとちょうだい』

いいよ、なんて言って渡されたそれは、ナポリタン。

麺類好きだからなあ。
昨日もカルボナーラ食べてた気がする。

一口だけど、すごく美味しい。

ナポリタンはあまり食べない私でも、また食べたいなって思うほど。

「Aはまたオムライスだね」

『うん。好みあんまり変わんないし』

冒険してみたい、なんて言いながら、別のメニューを頼む実紅のような勇気は私にない。

それも理由の一つだけど。

一番は、昨日食べたオムライスが本当に美味しくて。

別に他のが不味いってわけじゃないけど、このお店のオムライスが一番美味しく感じた。

元々好きだったし、余計にそう思ったのかも。

『美味しいよ。食べる？』

「食べる」

ぱくりとスプーンごと食べる実紅と二人で、女同士で何やってんだろね、なんて。

これを異性とやるって考えた時点で、私の思考回路はショートしそう。