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「わ、ブランコとかめっちゃ懐かしいわ」
Aも座ろうや、なんて子どもみたいにはしゃいで早く早くと私を手招きする。
離れた手が寂しくなったのは、言えないけど。
こうやって話を聞こうとしてくれるところも、上手く言えないけど、好きなんだ。
「言えへんかったらええよ?無理せんくても」
覗き込むように、でも優しくそんなこと言われたら、せっかく止まっていた涙がまた溢れ出す。
あたふたする重岡さんに申し訳ないと思いつつ涙声で今日あったことを話した。
『初めての仕事なのに、こんなことになって…
もう、どうしたら、いいかっ、』
うんうんと頷いてくれる優しさも、今の私には多分、逆効果。
余計に、包まれた感じがする。
「そっかそっか。
俺はその、デザイン?とか分からんけど、真似されてしかも疑惑かけられるってなあ…」
「まあ、ポジティブに考えすぎてもあれやろうけど、それだけAの才能もあるんちゃう?
なんかこう、あるやん」
ちょっとしたことやけど、気づく人っているやん。
あれや、なんやっけ中距離…なんとか?
あれも遠距離を中距離に変えただけやん。
でもネーミングセンスあるやろ。
なんやろ、小説家とか、脚本家とか、なんかその他もいろいろあるけど。
ああ、そう考えればよかったんやって思わせる人って俺らもそうやけど、結構な刺激やねんで。
やから考えすぎんでもええんちゃうかな。
「って、なんもアドバイスになってへんくて、なんかごめんな?」
『いえ、楽になりました』
「そう?ほんならよかったわ」
恋も仕事も上手くいかない。
そう思い始めてたけど、それを救うのは、いつだって重岡さん。
すごいな。私もあんな人になりたいな。
「よし、帰ろか。送るから」
『え、でも重岡さんが、』
「俺は大丈夫やって。
女の人やねんから男に守らして?」
『…はい』
立ち上がった彼に続いて私も立ち上がる。
カチャンと音を立てて寂しく揺れたブランコがなぜか私みたいに思えた。
『重岡さん』
「ん?……え、」
『ごめんなさい…
今日だけ、今日だけでいいから、繋ぎたい』
「…ええよ」
きゅっと絡まった指は、やっぱり不完全なままの形。
絡まったせいで近くなった距離に、心臓の音を抑えるのが精一杯だった。
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