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「あ、実紅ちゃん。いらっしゃいませ」
「ねえ、今日重岡くんいる?」
「しげ?おるけど、今は多分厨房やな。
もしあれなら呼んでこよか?」
『ちょっと実紅!あの、すみません…』
「あ、いえいえ。もしかしてAさんですか?」
『え?あ、はい。そうですけど』
「しげと実紅ちゃんからよう話聞いてます。
彼奴も楽しそうなんで、仲良くしてやってください」
『は、はい』
案内される方についていきながら、なに話してんの、なんて実紅に問い詰める。
返ってきたのは大して悪気もなさそうな返事。
Aが重岡くんのこと好きってこととか?
『え、嘘でしょ?』
「本当だよ」
口をパクパクとさせる私に対して、実紅はなにもないように注文をしていく。
カルボナーラとオムライスだって。
さらっと私の分も頼んでくれるんだね。
藤井さん、この優しい実紅をどうかもらってあげて。
私も仕返しでなにか告げ口したいから。
「なに考えてる?」
『実紅への仕返し』
「嘘でしょ?」
『冗談』
久しぶりのテンポのいい会話に、心がじわりと温かくなる。
こういうときって、心に染みるんだよなあ。
「重岡くんと連絡とってるの?」
『んー、ぼちぼちと。
最後の追い込みしてたし、ラインするくらいかな』
「一ヶ月も声聞いてないのか」
『うん、そうなるね』
今日は金曜日。
私の希望休は休日で、有難いことに明日は休み。
それが通る会社っていうのもすごいんだけど。
実紅も確か同じだから、きっと話は尽きない。
「お疲れさまです」
『え、重岡さん?』
「さっき流星から聞いてん。久々やね」
『お久しぶりです。
ごめんなさい、全然連絡してなくて…』
「仕事忙しいやろうし、全然ええよ。
でもその分今日会えてよかった」
『わ、私も、よかったです』
「ほんまに?」
『ふふ、ほんまです』
嬉しそうに笑ってオムライスとカルボナーラを置いていった重岡さん。
久しぶりだからか、見ただけでもう泣きそう。
情緒不安定だな、私。
「なに、結構いい感じじゃん」
『…そう?』
口に運んだオムライスがふわりと溶ける。
それが、涙に変わったのかな。
そんなわけないのに、そんな気がして。
ぼやけていく視界に実紅はなにも言わなかった。
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