常夏《赤》 (ページ26)

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#26 ページ26

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「で？さっきはなに話してたの？」

『さっき？』

「惚けないでよー。
誰かと楽しそうに電話してたじゃん！」

『なっ、え、起きてたの？』

「タイミングを見計らってたの」

仮にも倒れた後だっていうのに、人の恋愛話になるとすぐに目を輝かせるんだから。

でも彼女だから、そんなところも憎めない。

実紅って得してるよなあ。

人を惹きつけるような特別な笑顔。
容姿もスタイルも抜群で、おまけに人懐っこい。

本当に私と同じ人間なのか。
いや、待って。私が人間には及ばないだけかも。

「ぼーっとしすぎ！」

『へっ？あ、ああ』

「なに、もしやさっきの電話は王子？」

『…なんで分かっちゃうの』

確信犯の実紅に負けてさらりと言っちゃう私の方が、なんだかんだで話聞いてほしいのかなって。

ニヤニヤとしながらも、よかったね、なんて。
ふわっと笑って言う彼女には勝てない。

結局、なんでも話しちゃう。

『…重岡さんのこと、好きかもしれない』

意を決して言った言葉。
今さら反応が怖くなってぎゅっと目を瞑る。

でも彼女の声は、あっけらかんとしていた。

「え、なに言ってんの。今？」

『え？』

「番号もらった時点で意識してなかった？」

『え…』

「A分かりやすいもん。
もう見るからに嬉しそうな顔しちゃってさあ」

実紅のその言葉に、思わず顔が熱くなる。

バレてたなんて思いもしなかった。

『や、やめてよ』

せめてもの抵抗で、口先だけは否定しておく。

でも内心、ああ、やっぱりそうだったんだ、って。

意外と鈍感でもないことに気がついて、自分で自分を少し褒める。

熱烈な視線に耐えきれなくなったとき、ドアの向こうで、カタン、と音がした。

『…今音しなかった？』

「え？うそ、聞こえなかった」

恐る恐る近づいてドアを開けてみると、そこには水や薬が入った袋を持つ部長がいた。

『部長！もう、普通に入ってきてくださいよ。
びっくりするじゃないですか』

「ははっ、ごめんごめん」

私の後ろからひょこっと顔を出した実紅。

お姉さん。
レジ袋の中身に感心してる場合ですかあなたは。

仕事って言ってたのに…
わざわざ買いに行ってくれてたんだ。

さり気ない気遣いに笑みがこぼれる。

けれど、つられたように笑った部長の笑顔は、どこか引き攣ったような笑顔に見えた。