常夏《赤》 (ページ17)

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#17 ページ17

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あの電話から一週間ちょっと。

プロジェクトの方が忙しいせいで、重岡さんと連絡もまともに取れていない。

やっとかけられた電話でさえ「無理せんで」なんて、私が倒れないか心配される始末。

嬉しいけど、やっぱり毎日声が聞きたい。

『はあ…』

「また一つ幸せが逃げたな」

『な、中間部長！
びっくりした、驚かさないでくださいよ』

「驚かすつもりはなかってん。ごめんな？」

『とか言って笑ってるじゃないですか』

「ははっ、ごめんて。
大変やろうし、ちょっとした息抜きや」

『これのどこが息抜きですか…』

「ほんなら飯でも行く？」

ま、強制やけど。

車の鍵をチャラチャラと鳴らす部長は無意識なのか、後輩思いなのか。

無意識だったら今後見る目が変わりそうな気もするけど、そんな感じは全くしないから多分後者。

疲れきった体を癒せそうな部長の提案に申し訳ないと思いながらも、渋々頷いた。

「もう今日はええよ、それで上がって。
黒瀬も充分頑張ってるやろ」

『や、でも、』

「部長命令って言っても聞かん？」

『……甘えてもいいんですか？それ』

「こういうときは素直にお言葉に甘えるねん。
それで倒れられる方がよっぽど迷惑や。な？」

『…ありがとうございます』

本当に、部長には頭が上がらない。

仕事もできて気遣いもできるなんて、完璧すぎるからどう接したらいいのか分からなくなる。

『え、…あの、これは？』

「半袖やったら夜はまだ寒いやろ。
せめて肩にかけとき」

バサリと音を立てて私の肩にかかったそれ。

車に移動するまでの間。

そう言われたら好意を無駄にすることなんてできず、結局言われた通りにするしかなくなる。

顔の周りに漂う香水の匂いは、甘ったる過ぎず、でもきつ過ぎなかった。

「どうぞ」

『ありがとう、ございます』

エスコートなんてされたこともなくて、なんの躊躇もなく助手席を開けて待つ部長に、ほんの少しドキッとした。

だかど、なんか、違う。

充分すぎるくらいに緊張はする。
でもだからと言って、体が熱くなるわけじゃない。

ただ、心臓の音が体中に響くだけ。

『あの、これ』

「ああ。大丈夫？寒ない？」

『大丈夫です』

「そっか」

落ち着いた雰囲気の車内は、なんだか少し、気まずいような気がした。