深い海でも -fkr ページ21
*
「『乾杯〜』」
カチン、というグラスが重なる音が部屋に響く。
特に記念日とかでは無いが、拳くんが珍しく一緒にお酒を飲もうというので、口当たりのいい白ワインを買って晩酌を始めたところだ。
「こういうの久々だよね、家でゆっくり飲むのとか」
『拳くんが忙しくてなかなか帰って来ないからじゃない〜?』
「ごめん、ごめんって」
揶揄うような言い方をしたため、向こうも笑いながら返事をする。
でも実際は帰ってこない事がなかなか寂しかったけれど、彼の負担になるだけだからそんなこと言えない。
適当につけてたテレビでは、恋愛スキャンダルを芸能人同士で問い詰めるバラエティーが流れてる。
時折ふふっと笑う拳くんの顔を見るのも久しぶりだ。
話すのも久しぶりなため、お互い会話が少ない代わりに、お酒を口にするスピードが早くなっていく。
『あ〜、寂しくなって他人に目移りするってのはわかる気がするなあ〜』
「えー、A目移りしちゃってるの?」
『うーん、してないけど、寂しさを埋めるために、目移り出来たらなって思う時はある』
やばい、こんなこと言うつもりなかったのに、と思ってももう遅い。普段なら言わないことをつい流れで言ってしまった。
「A」
『ごめん違うの、拳くんのことが好きだから、好きなのに寂しくなるのが辛くて…って、だからそうじゃない、ごめん忘れて』
「やっと言ってくれた」
『…え?』
「Aいっつも無理して、俺のこと気遣って本音を言ってくれないから。無理させてるのは俺なんだけどさ…。お酒飲むとそれが少し緩むの自覚ある?」
『………、』
そんな自覚は全く無かった。
そもそも拳くんとお酒を飲む機会が少ないというのもあるのだけれど。
「お酒の力を借りなきゃ聞けない俺でごめんね。
でも言ってくれてありがとう」
『あ、お酒飲もうって…そういう…?』
「うん。Aの思ってること知りたかったから。ねぇ、こっち来て?」
『わっ…拳くん』
肩幅の広い彼の胸元に収まると、彼の匂いとお酒の匂いが混ざって、深淵に溺れてしまいそうな感覚に陥る。
たとえ沈んでしまっても、こうやって彼が気付いてくれるならいいかな。もっと素直になったっていいんだ。
『拳くん、今日は沢山飲んでいいかな』
「え?」
『それで、沢山甘えさせて?』
「…もちろん。沢山甘やかさせて」
fin.
292人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「QuizKnock」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
浅間(プロフ) - いろさん» 返信が半年近く遅れてしまいすみません…!!!!コメントありがとうございました!好きと言っていただけてとても嬉しいです…。マイペースな更新で申し訳ないですが、もしよければ今後ともよろしくお願いします! (2020年7月15日 0時) (レス) id: 2921f9dd64 (このIDを非表示/違反報告)
いろ(プロフ) - 今更感すごいですがコメント失礼します!前々からすごく好きで見させていただいていたのですがとうとう好きが溢れました。好きです。失礼しました。 (2020年3月4日 21時) (レス) id: 5fbef9d1c0 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:浅間 | 作成日時:2019年10月24日 17時