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顔を洗って目元を冷やし、お茶を淹れ直して部屋に戻れば、なぜか中也お兄ちゃんは疲れた顔をしながらソファーに沈んでいた。
『ちゅうやお兄ちゃん?どうかしたの?』
「あー…、何でもねぇ…。
…前田がしばらく側にいられないって言ってたぜ…?
あとそのテーブルの…。」
視線をテーブルに向ければ、前田ではない見たことのある短刀。
『や、げん…?
え?どうして薬研がここに?』
「前田が置いていった。」
『そう、なんだ…。』
「その刀も、カミサマなのか?」
首を傾げる中也お兄ちゃんに向かってコクリと頷く。
『とっても大事な、私の神様なの。』
「…そうか、良かったな。」
『…あのね、ちゅうやお兄ちゃんすごくやさしいから、
だれにも言っていないひみつ、おしえてあげる。』
「?なんだよ。」
中也お兄ちゃんの耳元に口を寄せて小さな声で私は告げる。
『薬研はね、前田のお兄ちゃんで、とっても男前な兄貴って感じの神様なんだけど…。』
「…なんかそんな特徴の兄弟がいるって前田も言ってたなァ。」
『薬研はね、
私の、初恋の神様なんだよ。』
私のように薬研の見た目と中身のギャップにやられる審神者は多かったはず…。
その恋慕は伝えないまま私も大きくなって、変わらず薬研のことは好きだったけど、男士皆のことも勿論大好きで…。
結局、私のその気持ちはただの家族愛だったんだなって、後からそう思うようになった。
『えへへ、だれにも言ったことないんだよ。ひみつだからね。』
「…。」
『?ちゅうやお兄ちゃん…?』
いきなり動かなくなってしまった中也お兄ちゃんの目の前でヒラヒラと手を振る。
ハッと気がついた中也お兄ちゃんは、焦ったように私に相槌を打った。
?変なお兄ちゃん。
前田が薬研を置いていったということは、側にいられない自分の代わりに、薬研を置いていったということだろう。
いつから薬研を持っていたのかは分からないけれど、もっと早く言ってくれれば良かったのに…。
私は薬研の本体を持ち上げて、霊力を込めた。
『来て、
薬研藤四郎。』
ふわりと花弁が宙を舞う。
サラリと揺れる黒髪、アメジストのような切れ長の瞳、儚げな美少年。
「よお、久しいな大将。
息災で何よりだ。」
男前に笑う目の前の存在はまさしく、
『やげんっ…!会いたかった…!』
「おうおう、あんまり泣くと目が溶けちまうぜ大将。
ほら、大将は別嬪さんなんだから笑ってくれ。」
『ゔん…!』
鼻をすすりながら、私は笑った。
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Hi! - はじめのエリスちゃんの言葉にやられました。好きです! (2019年7月14日 23時) (レス) id: f98b79cb93 (このIDを非表示/違反報告)
しの - マッジで面白いねんけど 更新待ってますね (2019年7月12日 0時) (レス) id: 5129f74190 (このIDを非表示/違反報告)
カノン(プロフ) - わさまんさん» それに気が付くとは…。知られたからには…。 (2019年6月24日 21時) (レス) id: 6b81268271 (このIDを非表示/違反報告)
カノン(プロフ) - silentさん» ありがとうございます。いいことがあって悪いことがあったら次はまたいいことが来ますよ。例えば賽子6・6とか。 (2019年6月24日 21時) (レス) id: 6b81268271 (このIDを非表示/違反報告)
カノン(プロフ) - KISH○W推し(女)さん» ちゅやはいいぞ。 (2019年6月24日 21時) (レス) id: 6b81268271 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:カノン | 作成日時:2019年6月6日 19時