検索窓
今日:2 hit、昨日:9 hit、合計:18,903 hit

413話 ページ48

踏み込んですぐ、足元に広がっていたのは生々しく広がる血の海。その痕、だった。床にべっとりこびりついたそれは、今もまだ滴るような鮮烈な赤色と乾ききった黒色を合わせ持ち。かつてそこで何かがあったことをたやすく想像させた。



「ここが……レイの、部屋……?」



 Aは床に広がる赤色を呆然と見つめながらつぶやいた。ザックは同じく床の血の痕を眺めながら、「床が真っ赤、か……」とぼやくと鼻を鳴らす。



「……普通だか、普通じゃねぇーんだかわっかんねえな」



 ザックの言葉に顔を上げたAはようやく部屋の全貌を目にする。青っぽい光に照らされた部屋の中は、ザックの言うとおりに『普通』の子ども部屋のようだった。一人用のベッドと、タンスと。小さな椅子があって、本棚がある。妙な既視感を覚えるのは、Aもかつて自分の部屋を持っていて、その部屋と似た雰囲気を感じるからだろう。
 少し違うのは本棚だ。その中には内容を選ばずに多数の本が並べられていて、およそレイがのような年齢の子どもが読むには難しすぎるのではないか、というような題名のものまで並んでいる。
 Aが本棚を眺めているうちに、ザックはスッとAの後ろをすり抜けた。どうせ自分には読めないからとザックが見上げたのは窓の外。



「……ここの窓も月が映ってやがる。どーみても、本物じゃねえな」



 Aが本から顔を上げ、ザックが言う『月』を見てみると、窓の外に浮かんでいるように見えるその月はわかりやすく偽物だった。何かを演出するようにただ部屋の中を照らしている、冷たい光。


 そしてその月が偽物であるのと同じように。



「……なんか花、たくさん置いてんだな。でもなんで全部ニセモノなんだよ」



 部屋に置かれた花の全てが作り物だった。このフロアに来てから何度も嗅いだ花の匂いがここにも漂っている。花自体は偽物だというのに、何かを覆い隠すようににおいだけが強く、強く。


 普通のようで、異常な部屋。その中でも特に異常を主張する血だまりの横、部屋の中央には小さなブラウン管のテレビが慎ましく置かれていた。作り物だらけのこの部屋の中で、このテレビだけは本物らしく、ジリジリと小さな音を立てている。


 部屋をひとしきり見たザックが、無言のままにテレビに歩み寄って無言のままに腰を下ろした。そしておもむろにそのスイッチを押す。

414話→←412話



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (59 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
124人がお気に入り
設定タグ:殺戮の天使 , ザック
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

リア(プロフ) - ゆゆさん» ゆゆさん、コメントありがとうございます!そしてお返事が遅れて申し訳ありません……!ようやく夢主が前に進む覚悟を決めることができました。残るフロアはあとわずかですが、ぜひ最後までお付き合いください。これからもどうぞ、よろしくお願いいたします! (2021年9月25日 2時) (レス) id: d0c52e385f (このIDを非表示/違反報告)
ゆゆ - 続編おめでとうございます!!楽しみに待っていました!夢主ちゃんが、きちんと前を向いて進んでいけそうなので、ホッとしました。次はいよいよB1……。夢主ちゃんがどう動くのか、とってもワクワクしています。リアさんのペースで、更新頑張ってください!! (2021年9月4日 17時) (レス) id: 0ff7621059 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:リア | 作成日時:2021年9月1日 16時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。