381話 ページ16
立ち上がったザックがソファの上の死体を蹴り落とすと、レイを抱き抱えたAに呼びかけた。
「おい、A! レイをここに寝かせろ」
「……死体があったところだけどいいの?」
「床よりかマシだろうが。はやくしろ」
Aは頷くと、立ち上がりレイを抱き上げる。細い体は、今にも浮き上がってしまうのではないかと思うほどに軽かった。Aは慎重にレイをソファに寝かせると、僅かに開かれた口元からかすかな息の音が聞こえてくるのを確認する。
「息はしてる……気を失ってるだけみたいだ」
「んだよ、こいつ突然倒れやがって……疲れてんのか? まぁ、無理もねぇけどよ……」
ザックがブツブツと呟くのを聞きながら、Aは考えていた。
頭の中に蘇るのは、少し前の時間からのレイの様子だった。何かを言いかけて、口を噤むレイの姿を思い出す。
(疲れている──それは確かだろうけど、きっとそれだけじゃない……)
そんなことを考えながらも、確信が持てない。それ故に口元を引き結ぶと、言葉に出ぬように抑え込む。
「みょうにあわてて、おかしくなってやがったな……あぁ、ちくしょう……ここにきて、絶望したような顔しやがって」
「でも──ザックが殺したいのは、その顔のレイじゃないんでしょう」
「……今さらこいつがそんな顔しても、……面白くねぇ」
Aの言葉に、ザックは目を背ける。理解できないものを見たとでも言う風な、困惑した表情。
「………………"私の神様"って、俺のことか」
「…………」
「……あぁ、なんだこれ……胸くそわりぃ……」
『私の神様』。確かB2でも、レイはザックに向かってそう言っていた。衝動に溶かされた脳の片隅で、そんなことを言っていたのを聞いた気がする。
(でも、『私の神様』って……? レイにとって、ザックは……)
レイの思考が分からない。Aにとって、レイの思考回路は迷路のように思えた。随分と長く思える道のりを一緒に進んできたはずなのに、あんなレイの様子は見たことがなかった。何よりも。『神様』を信じられないAにとって、今のレイはあまりに遠い。
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リア(プロフ) - ゆゆさん» ゆゆさん、コメントありがとうございます!そしてお返事が遅れて申し訳ありません……!ようやく夢主が前に進む覚悟を決めることができました。残るフロアはあとわずかですが、ぜひ最後までお付き合いください。これからもどうぞ、よろしくお願いいたします! (2021年9月25日 2時) (レス) id: d0c52e385f (このIDを非表示/違反報告)
ゆゆ - 続編おめでとうございます!!楽しみに待っていました!夢主ちゃんが、きちんと前を向いて進んでいけそうなので、ホッとしました。次はいよいよB1……。夢主ちゃんがどう動くのか、とってもワクワクしています。リアさんのペースで、更新頑張ってください!! (2021年9月4日 17時) (レス) id: 0ff7621059 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:リア | 作成日時:2021年9月1日 16時