【殺戮の天使】天使か、生贄か。《Ep.10》

425話 ページ12

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「そのあと、私はお父さんとお母さんの体をぬってひっつけてあげた」



　レイはぼんやりと思い出す。動かなくなった父親と、縫い目だらけの子犬を照らす月明り。
とても疲れていたけど、ようやく理想の家族が手に入ると思ったから、父親の体を引きずってリビングまで運ぶのも苦ではなかった。



「仲よくぴったりひっつけた」



　リビングにまで運んできた父親の体と、キッチンで倒れていた母親の体。二つをぴったり縫い合わせて、離れないように、仲良く見えるように。



「そして、お父さんの悪い腕は、ぬいぐるみの腕と取りかえて」



　父親が持っていたナイフを使ってその腕を一生懸命斬り落とした。父親の腕はいつも母親を殴る悪い腕だったから、優しくてかわいいぬいぐるみのものに交換してしまえばいいと思った。これで父親はもう母親とレイを殴ることも、ナイフを握ることもない。



「お母さんの口はにっこり笑うみたいに唇に糸を通してあげたの」



　母親はいつも口元をゆがませていて、笑っているところなんてここ何年も見ていなかった。糸を通すことで母親はようやくにっこり笑ってくれるようになって、レイを怖い顔で睨みつけることもなくなった。



「それが、理想の、お父さんとお母さんだった」



　仲良くひっついた二人をソファに座らせてあげると、心の底から満たされた気持ちになった。あんな気持ちになったのは何年ぶりだっただろう。


　──優しいお父さんと、笑っているお母さんと、かわいい子犬。


　そんな理想の家族に囲まれて。



「ずっと三人と子犬で遊んで楽しかった」



　ああ。あんなに素敵な日々があるなんて。



　──庭で遊ぶ私と子犬を、お父さんとお母さんが並んで微笑み、見守っていた。


　──優しい笑顔を浮かべたお母さんが、本を読むレイの頭をなでてくれた。


　──リビングでコーヒーを飲むお父さんが、レイの話を楽しそうに聞いてくれた。


　──大きなベッドで三人並んで、ぬくもりに挟まれてぐっすりと眠った。



　楽しくて、満たされて、夢を見ているかのような日々だった。

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