【実l況l者】好きを更新し続けよう【短編集】 (ページ2)

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まるめた気持ちを取り戻そう _rt ページ2

学パロ

好きな人に渡す、と言ってシンプルなのにどこか可愛らしい便箋を買った彼女を見たとき、この恋は諦めるしかないんや、と本気で思った。

せめて、その好きな人と結ばれるまでは今まで通り近くにいて、それで少しずつ気持ちを薄くしていこう、誤魔化していこう、ってそう決めたはずなのに、薄くなるわけなくて。

「…レトはさ、こういう手紙渡す相手いないの？」

Aは問題の便箋に文章を書きながら質問を投げかけてきた。この瞬間にそばにいれることを喜ぶべきか、俺じゃない誰かへの手紙を書くという現実を悲しむべきかわからない。

「いないわけじゃないけど、度胸はないな」

この期に及んで俺は幼馴染みという関係に甘えることしかできずに、諦めることも勇気を出すこともしなかった。彼女から問われても何となくそれをほのめかすようなやんわりした表現しかできなくて。それがお前だよ、とも言わないし隠し通しもしないこの姿勢、好かれないんだろうなあ。

彼女は俺の答えに目を丸くした。

「え、好きな人いるってこと？知らなかった」
「俺やってAにそんな人おるん知らなかったよ」

手を止めて、こちらを見つめながらそう言われると俺も期待とか、身の丈に合わない緊張をしてしまう。平静を装ってなんとか返しても、彼女の視線は変わらなくて。

「それなら、悠長なことも言ってられないな」

何かをボソリと呟いた彼女は唐突に立ち上がる。立ったまま腰をまるめて、机に置いてある便箋に大きく何かを書き始めた。

「…そういうことだから、好きな人いるのに付き合わせてごめんね」

紙をぐしゃぐしゃにまるめて俺に押し付けて荷物を持って去ろうとするAの手首を掴む。このまま別れちゃダメだと思ってとりあえず引き止めたけれど、紙に何が書いてあるかの確認はまだしていない。

“すき”

なんでこんなこと、そう思いながら紙を開くとそう書いてあって、驚きながら彼女を見ると泣きそうな顔をしていた。彼女の好きな人が俺、ってことだよな…これが間違いじゃないのは、俺の得意な勘違いじゃないことは、彼女の表情で伝わる。

「なんでそんな顔してるん」

できるだけ優しく微笑んで、にやけそうになる頬に気を張って、少しかっこつけてそう言ってやる。急に意思が固まってきた。先を越された気分。

さて、どうやって告白しようか。

『まるめた気持ちを取り戻そう』end