7月12日 ページ22
ふう、とカンジは大きなため息をついてコンテナを下ろす。教員から片づけを命じられた本達だ。この夏、教育場の図書館では大きな書架整理が行われ、それなりの数の本が叡智の門へ戻されることとなった。才人たちによって本は日々書かれるが、置くためのスペースは有限だ。撤去される本達は一つの空き教室に集められた。もはやこの作業に携わるカンジのような人々の目にしか触れない。来週には、門まで運搬するためのトラックが来る。だから、来週までにすべての本を運び終えなければならない。
「終わる気がしない」
今の時間帯に作業に従事しているのが彼だけなのをいいことに、カンジはぽつりと言葉をもらした。図書室にはまだ膨大な量のコンテナがあった。既にかなりの量を運んできたが、果たして全て運び終わる日が来るのか。いや、来週にはその日が来ていないといけないのだが。……しかし、一人でずっと作業をしていると飽きるし、何より疲れる。休憩、と彼はコンテナの横に一旦腰を下ろすことにした。首に巻いていたタオルで顔を拭い、一つため息を吐く。一度腰を下ろしてしまえば、すぐに立つ気にはなれない。何となく手持ち無沙汰になる。ふと、コンテナの中の本の字列を追う。経年で古びた見た目だった。一冊引き抜いて開いてみると、肌の色がどうとか、言葉がどうとか、どぎつい差別の言葉が並んでいた。思わず閉じる。見た目のわりに、ページにはくたびれた様子はなかった。書架に入ったものの、あまり読まれていなかったということだろうか。そのことに少しほっとする。そのまま本を戻そうとすると、何かがつかえる感覚があった。本を引き抜きながらコンテナを見る。底に封筒が一枚、静かに倒れていた。これが表紙かページの間に挟まったのだろうか。生徒のものであったらいけない、とカンジは封筒を手に取る。
それは、先ほど手に取った本よりも随分と古びていた。触るとざらざらしているうえに、少し乾燥した感もある。元は真っ白な封筒だったろうが、日焼けしている上に何か所か液体が散ったのか、染みができていた。
封はされていなかった。好奇心に動かされ、つい中の便箋を取り出す。
流麗な字は、こう呼びかける所から始まった。
『近頃、何かしら遺しておきたい想いがあり、なのでこうして書いています』
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
