Message in a bottle【叡智】 (ページ17)

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腐敗ページ17

「自然淘汰の結果だろう。おそらく、君が言いたいことはそういうことじゃないだろうけど。君は確か、詩人だったね？」
独り言なんで忘れてください、と視線を上げずに日芽は言った。彼女にとって、もはや史の存在は邪魔になりつつあった。
このまま沈んでいけそうな気がした。ここに書かれた言葉に誘われるままいけば、どこまでも深く、深く、潜って行けそうな気がした。潜って行った先に何があるかは分からない。けれど、その先がつめたい、というのは感覚として分かった。つめたいそこでは、腐敗しない。ずっと抱いていられる。
「リブレリーアって、どれくらい覚えていられるんです？」
「それはもう、幾らでもじゃないかな。記憶を説明するのは難しい」
「……忘れたりしないのって、ええですね」
「と、思うだろう？けど、人間の残念な性質も持っていてね。リブレリーアであっても、記憶の改ざんは起きうるんだ。本なら一度記した内容は変わらないけれど、俺たちは定期的に確認をしないと、勝手に書き換わってしまう」
　いっそ清々しくなる回答だった。記録用に造られた人間であっても、人間の内部に蓄積されるときには記憶になる。
　そして、記憶はおしなべて腐敗する。

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