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徒花の散る頃《壱》 ページ40

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「生かしては、おけぬ」


芥川の声は、憎悪で喉を焼かれたように掠れていた。


「おのれ…おのれ、おのれ…!! 異能特務課!! 狗が群れをなして集たかるなど、許してなるものか」


身体が憎悪で覚醒していくのを感じながら、外套を剥ぎ取る。そのまま病室を出て行こうとする芥川の道を塞ぐようにして立っていた中也は、何の感情も込めずに呼び止めた。


「手前。どこ行く気だ?」

「決まっている。千代を連れ戻すため、薔薇の異能者を処断する。奴の本拠地は」

「あのなぁ」


中也はドアの前から一歩も動くことなく、何かを堪えるような溜息をついた。


「…まあいい。で? 襲撃者の記憶も覚束なねぇのに、その女らしき異能者は手当たり次第にぶっ殺して。こっちのミスを手ぐすね引いて待ってやがる特務課にも喧嘩を売って。多大な負債を犯してでも復讐を果たすと。それでめでたしめでたしってか?」

「負債など関係ない」


中也の不慣れな皮肉じみた語りかけにも、芥川は退かない。


「このヨコハマで執り行われる全ての悪逆は、我らポートマフィアの目下で指揮されるべきもの。手負いの構成員を拐かすなど、国の狗には身に余る罰であると知らせねばならぬ。退かれよ、中也さん。貴方とて己の部下の危機に呆けておられる程の余裕もあるまい」


言うべきことはそれだけだった。芥川は振り返らずに病室の外へ向かった。ドアに手をかけ、一歩三歩と足をすすめていく。


「ああ。いくらでも手を尽くすさ。―――部下の危機だったらな。部下が危ない目にあったっつうんなら、相手が誰でも引く理由にならねえよ。よくわかってんじゃねえか」


並んだ足音に気が付き、ようやく視線を中也に合わせる。前をまっすぐに見る中也の表情は、芥川からは見えなかった。


「あの女から手前を引き剥がすのはなかなかに大仕事だったぜ」


代わりに見えたのは、肌の傷痕だった。


鋭い棘に縛られたような痕が、中也の腕を赤く染めていた。

徒花の散る頃《弐》→←植物園の巣穴にすむ獣《参》



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アバンギャルド・マボ(プロフ) - PVの方も見てくださってありがとうございます!!!いつか未来分岐のあるノベルゲーム版を書いていきたいと思っておりますので、その時は是非プレイしてやってください!! 遂行する前から読んでくださってありがとうございます…コメントめちゃくちゃ嬉しかったです… (2019年8月29日 13時) (レス) id: f747016130 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 読み込んでくださってありがとうございます(;_;) 台詞に言及してくださるのが嬉しすぎて…。 細かいことは気にしないを地で行く姿が伝わっていることが大変嬉しい!!ずるいぞお前って言いたくなるタイミングで男前を発揮する芥川が表現できててよかった!!! (2019年8月29日 13時) (レス) id: f747016130 (このIDを非表示/違反報告)
よしな。(プロフ) - あと、PV観ました。何あれすっごいですね!!音楽のセンスと文章ぴったりです!老爺ってまさか……子どもたちってまさか……と思いながら観てました笑。推敲する前から足立シリーズ好きなんですが、もっと好きになりました。 (2019年8月28日 12時) (レス) id: 97ebc294fb (このIDを非表示/違反報告)
よしな。(プロフ) - 不断の糸の芥川が好きすぎる。「どんな人生を歩んできたかなんて過去でしかない」って言えるのは君だけだよ……「文章だけで何を理解できる」か。これから大切なのは今であり未来だと言われてるみたいで。だからこのコンビは好きなんだ。 (2019年8月28日 12時) (レス) id: 97ebc294fb (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - わあああいつも有難う御座います!!この作品は初めて自分がシリアスに着手したやつなので、一番好きだといっていただける方がいるのが最高にうれしいです・・・これからもお付き合いください!!! (2019年7月28日 22時) (レス) id: 940de82038 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:アバンギャルド・マボ | 作成日時:2016年10月22日 0時

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