蜘蛛の糸、十九本目 ページ20
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「男は流石に頭を抱えて
その頑なな態度に、つに霊峰の魔性はしびれを切らしたと見えて、
松の老木ほどもある背丈の猛き神将が、その
神の威光をも恐れぬ男の眼光を覗き込み、神将は言った。
『返事をしないか。――しないな。好し。しなければ、しないで勝手にしろ。その代りおれの
もう、結果は言わずともしれたことだろう。我々の知る通り、男は何一つ言葉を発さなかった。
しかしこれまでとは致命的に異なる部分がある。
……神将は、山の魔性などではなかった。その手に持つ三叉の矛は間違いなく、一突きに、男を突き殺した。
神将はからからと高く笑いながら、どこともなく消えていった。
勿論この時はもう奴の従えていた無数の神兵も、吹き渡る夜風の音と共に、夢のように消え失せた後だった。
ちょうど、今我等の見上げる夜空に浮かぶ北極星も、男の頭上にあった。
一等星はことさら寒そうに、一枚岩の上を照らしていた。
……一枚岩の上には、仰向けに倒れたまま目白がなくなった男が倒れているだけとなってしまった」
「その人、死んじゃったの」
少年のか細い声が、冷たい空気を揺らしました。
誰もが固唾を飲み、龍之介の口吻に耳を傾けておりました。無論私とて同じです。
龍之介は、杜子春伝を読んだ。
しかしそれは、彼の語る『物語』に姿を変えていたのです。
…私の知らない物語が、彼より語られようとしています。
「ああ。男は遂に命を落とし、黄泉の国を巡ることになる。
…しかし男が連れ回される先は、日本で言うところの地獄で正しいのかは定かではない。
故に、僕の知る地獄でしか男の巡った道を語れぬが、それは許せ。
……男の巡った道には血の海、針の山、煮えたぎるような湯、生き血を啜る魑魅魍魎の数々。
この貧民街が現世の地獄といえど、生くる我々には想像もつかぬ残酷な仕打ちが男を待ち受けていた。
されども男は呻きすらせぬ。
おしのごとく、口を利かず、如何な鬼に身を裂かれようとも喉を震わせることはなかった」
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伊織 - もう好き...!最後ウルっときましたよ。というか泣いちゃいましたよ。ほんと構成がお上手で...。芥川先生の作品たくさん使ってるの凄い好きです。千代の方も読んでるのですが作者様天才ですね。感動作品をどうもありがとうございます...! (2021年5月22日 18時) (レス) id: 399c3e6058 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - コメントありがとうございます!!初めて書いた女主人公が蜘蛛(雌)ェ……とはいえ、実は人間だった頃が誰なのか、モチーフが居ますので、もしも暇だったら蜘蛛の前世当てクイズに挑戦してみてください笑笑 意外にも多くの方に読んでいただけて嬉しい…(芥川はいいぞ…) (2019年4月2日 11時) (レス) id: ea18c173c6 (このIDを非表示/違反報告)
多田野メガネ(プロフ) - どうも多田野です。千代の記以外の、それも女(雌?)主人公が新鮮でした(°▽°)突然の告白ですが、所々に芥川作品要素を垂らしていくマボ様が好きです。 (2019年3月27日 13時) (レス) id: d89d5986ef (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - ありがとうございます!!何も考えずに三時間で書いてみるチャレンジで、殊の外うまく書けたものなので完結させてみることにしました笑笑ギャグシリアス、展開などこれっぽっちも考えず、思いつきで書いております。とても短いお話ですが、最後までお付き合いください! (2019年3月25日 16時) (レス) id: ea18c173c6 (このIDを非表示/違反報告)
柘榴※惰眠愛してる(プロフ) - 新作おめでとうございます! (2019年3月25日 0時) (レス) id: cf0e41908a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アバンギャルド・マボ | 作成日時:2019年3月25日 0時